『週刊読書人』 1992年 E・ホブズボーム/T・レインジャ(編)『創られた伝統』 前川啓治/梶原景昭 他訳 (紀伊國屋書店、1992) 近藤和彦 2003.6.6 保守 カバーの折り返しに 「『近代』の本質に、類のないアプローチを試みたものとして、評価の高い論文集」 という。 E・ホブズボーム(Eric Hobsbawm) のロンドン大学退職を記念して刊行されたいくつかの論文集のなかでも、とりわけ学際的であることを明示した編著であり、まったくその通り。だが、評価の高い訳書になるかどうか。それは別の問題であろう。 悠久の民族的な伝統と考えられていたことが、じつは百年前後くらいしかさかのぼれない、近代史の産物だったということが少なくない。これは近代天皇制についても、数年まえから常識となったことである。序章「伝統は創り出される」(Introduction: Inventing Traditio