歌は世につれ世は歌につれ。小説はどうだろう。庄司薫さん「赤頭巾ちゃん気をつけて」である。 1969(昭和44)年に発表され、芥川賞を受賞した。単行本と文庫本を合わせて約165万部(2016年2月現在)に達する大ベストセラーになった。面白いに違いないと確信して読み始めたところ、戸惑った。 まず文体。「あーあ、やんなっちゃったということになるわけだ」「どうなっちゃっているのだろう」「生意気言っちゃってさ」などと、若者のポップな語り口調が続く。 これは米国の作家、サリンジャー(1919〜2010年)が、思春期の心理を柔らかく描いた「ライ麦畑でつかまえて」(1951年)で使った「冗舌文体」と同じスタイルだ。芥川賞選考委員たちの間では強い嫌悪感も示されたようだが、後続の作家に与えた影響は絶大である。