しばらくの間、数学に関するエッセイを連載することになった。数学そのものに深く踏み込むことはできないが、その周辺部を散歩するというスタンスで話を書きたい。少しの間お付き合いください。 2016年6月29日の毎日新聞夕刊は、1面を使って「数学ブーム なぜ続く」という特集を組んだ。そういいながら、記事は「三角関数を思い出すだけで嫌な思い出がよみがえる」で始まるのだが。哲学者國分功一郎は著書『民主主義を直観するために』(晶文社)の中で、バートランド・ラッセルを引いて次のように書いている。「ラッセルによれば、かつて教育は楽しむ能力を訓練することであった。(『ラッセル 幸福論』岩波文庫56ページ)これは楽しむという行為が決して自然発生的なものではないということを意味している。楽しむとは、何らかの過程を経て獲得される能力であり、こう言ってよければ、一種の技術なのである」ここには昨今の数学ブームと