はじめに アベノミクスの一環として賃金交渉が復活してから、にわかに春闘が注目を集めるようになり、同時に賃金についても歴史的に考えようという風潮が出て来た。私も『日本の賃金を歴史から考える』を2013年秋に出版したこともあり、歴史を考えたいという声を多く聞くようになった。その声を総合すると、現在、直面している問題を考えるだけでは行き詰まりを見せるので、歴史的にそうした問題を位置づける必要があるということがその趣旨のようだ。しかし、歴史的に物事を見る際にも、昔から現在までの出来事を並べるだけでは不十分であり、重要なことは時間軸を使うか否かを超えて、ある程度の抽象化、あるいは理念型化を行うことなのである。必要なのは理論化である。 賃金の理論を考える際に、いったん規範的意識を排除する必要がある。すなわち、ジェンダー平等や生活保障などの社会権(ないし生存権)の実現といった観点からの政策提言ではなく、