風化が切実な問題になっている。東日本大震災の被災地で取材を続けている同僚にこう言われ、三陸を歩くことにした。 津波に流された岩手県宮古市の田老地区の集落は、だだっ広い空き地か原っぱのようにしか見えなかった。東北の別の場所ではあるが、2年前の秋に見た被災地の風景とほぼ同じだ。 復興が進んでいない。そういう事前の下調べで想像していた景色とそう変わらないはずなのに、まったく違って映る。 空き缶が転がっている。人が暮らしていた跡がわずかとはいえ、はっきりと目に入ることを忘れていた。少ない人通りでも、時間の蓄積が人の表情を変えることに思いが及んでいなかった。風化は自分の頭の中で起きていた。 誰かと話をしないと、どこに何があったのかも分からない。周囲を見渡すと、プレハブの理容店がぽつんと建っていた。 ドアを開けて名乗ると、店主の高橋優さん(63)はきょとんとした。「東京の記者さん? 珍しいね