銀幕で濡れ場が開始(はじ)まると、客席中にもつられて血を熱くして、みるみる脳まで茹であがり、一切の思慮を蕩けさせ、過去も未来もまるきり喪失、ただ現在(いま)だけの、現在確かに存在している衝動だけの塊と化し、そのままそこで自分等もおっぱじめ(・・・・・)ちまう(・・・)奴(バカ)がいる。 これは戦前、白黒映画、どころか声も入っていないサイレントキネマの時代から、屡々生起し、問題視された事態であった。 (Wikipediaより、ローヤル映写機) 福岡県庁保安課による調査記録に基けば、昭和四年に劇場内にてつまりその、暗がりにまぎれてみだらなことをしたというので、八幡市だけで女性六名、男性十六名が捕まり、こっぴどく説教されている。 検閲に引っかからないよう、直接的な描写を避けた匂わせるだけのラブシーン。あんな粗っぽい映像だけで人目を全然忘れ去るほど発情するのが可能とは、いっそ感心するべきか。 あり