旅が好きだからといって、いつも旅ばかりしているわけにはいかない。多くの人は、人生の時間の大半を地元での地道な日常生活に費やしているはず。私もその一人だ。が、少し異なるのは、夕方近くにはほぼ毎日、その地域で昔から続く銭湯(一般公衆浴場)ののれんをくぐることだろうか。この習慣は地元でも旅先でも変わらない。昔ながらの銭湯の客は、地域の常連さんがほとんど。近場であれ旅先であれ、知らない人たちのコミュニティーへよそ者として、しかも裸でお邪魔することは、けっこうな非日常体験であり、ひとつの旅なのだ。 水運と酒蔵……京・上方をつなぐ河港として栄えた伏見 京都市の南部、桃山丘陵から西へなだらかに続く場所。砂礫(されき)層から豊富に湧き出る伏流水に恵まれたこの地は「伏水(ふしみ)」と呼ばれ、その清らかな名水とともに宇治川水運の利も得て、古くから酒蔵が立ち並んできた。今なお20以上の蔵元がひしめく日本有数の酒