第1章 禿(ハゲ)という漢字に宿る暴力 ──身体欠損を笑う文化の起源をたどる 1. はじめに――その字が語りかけてきたもの 「禿」という漢字を見たとき、あなたは何を思い浮かべるだろうか。 もしかすると、誰かの頭頂部を、あるいは自分自身の鏡の中の姿を、ひそかに想像するかもしれない。そして同時に、ふと笑ってしまったり、あるいは心の奥にヒリつくような痛みを感じたりすることもあるかもしれない。 この文章を書いている私自身、最近になって髪が薄くなりはじめた。もともと毛量は少なかったが、ある日ふと他人の視線が「こちらの目」ではなく「頭頂部」に向けられていることに気がついた瞬間、言いようのない屈辱感に襲われた。何気ない会話のなかで、視線だけが嘘をつかない。ああ、私はすでに、笑われる側に来てしまったのだ――。 だが考えてみれば、おかしな話だ。 人が老いることも、髪が抜けることも、ある意味では当たり前の自然
