「悪いな。もう、おまえには飽きたんだ」 昔の安いドラマにあるお決まりのセリフである。そして女はすがりつき、なぜ? どうして? と泣くことになっているが、そう言われても飽きたものは飽きたとしか言いようがない。 とにもかくにも人は飽きる。洋服や音楽は言わずもがな、仕事や住宅、時には人生そのものにさえ飽きてしまう。ひょっとすると、世界の経済は原油価格なんかよりも、よほどこの〈飽き〉に振り回されているのかもしれない。すなわち、飽きたから捨てるのであり、飽きるから新しいものを求めるのである。 飽きると同様に、人は慣れる。あるいは戦争でさえ慣れることができるらしいが、しかし、この世に飽きないものもまたないのだろうか。34年ほど生きてきた私の率直な実感としては、飽きないものはない。お気に入りの服も毎日着れば飽きるし、好物とて毎食も食べれば飽きるだろうし、いくら好きな人でも始終べったりしていれば飽きてしま