今からちょうど一年ほど前、突然、旅行雑誌「TRANSIT」から、イタリア特集の中でムッソリーニを取りあげたいとの企画が持ち込まれた。折りしもリーダーシップやポピュリズムの問題が注目されている時期でもあり、「ムッソリーニとはどんな人間で、政治家としてどのような評価ができるのか」という問いを出され、断るわけにもいかず、一ヵ月ほど苦慮することになった。 担当者は熱心で、公刊されているムッソリーニの伝記をいくつか読んで、彼に関する発言のアンソロジーを作ってきてくれたのだが、現在、入手可能な日本語のムッソリーニ伝の中には、彼を再評価する傾向も見られ、そもそもこれらを反駁するところから、作業を開始しなければならなかった。 さすがに「男性としてのムッソリーニの魅力」という話については、愛人四〇〇人説をふくめ、ほとんどが対等な人間関係とは思えないと即答した。実際、ムッソリーニは出勤途中で見つけた女性を執務
