呉座勇一『戦争の日本中世史: 「下剋上」は本当にあったのか』新潮選書, 新潮社, 2014. 元寇の時期から応仁の乱までの武士を扱った歴史書。戦後支配的だった「階級闘争史観」──「武士にとって乱世は立身出世のチャンスであり望ましく、彼らもそう考えていたはずだ」──という色眼鏡をはずして、武士はむしろ「持てる者」として体制の存続を望んでいた、というスタンスから、各種の事件や軍事行動の再解釈を試みている。 本書で示される武士像は以下のようなものである。大将クラスの武将は遠方の敵を撃つために軍事動員をかけるのだが、従軍する下級武士にとっては、近隣の武士によって所領を奪われたり、財産を失ったり、自分の命の喪失やそれに伴う家族の没落などの可能性があり、従軍のリスクは高かった。したがって遠征参加は嫌々であり、自前で準備した武具や食料が尽きると戦線離脱することも頻繁だった。戦闘参加の動機として重要なのは