[ cinema , interview ] 関係の現状維持を目的にしてしまう人の物語に魅かれる 「体裁とか、不謹慎とか。友情とか、家族とか。生活とか、夢とか。社会とか、身分とか。そういう類いのものは"好き"という気持ちの前では無力だ」──今泉力哉の長編第三作『こっぴどい猫』の主人公が書いた小説『その無垢な猫』にあるこの一節は、角田光代の原作を映画化した彼の最新作『愛がなんだ』の主人公テルコのためにあるのかもしれない。職務を怠慢でクビになろうとも、面接を途中で放棄しようとも、無職でいようとも、彼女は迷うことなく好きな人と一緒にいたいという自分自身の感情を第一に優先することができる。 『愛がなんだ』は自分を犠牲にして相手に尽くすことを美徳とする女(と男)の物語。現在の日本における言葉遣いや間など日常の描写に細密の関心を払いつつ、片想いを主軸にしたトラジコメディをつくってきた今泉力哉は、近年、