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衆院選
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『忘れられた日本人』(一九六〇年刊)は、民俗学者・宮本常一の代表作とされている。代表作とされることに別に異存はないけれど、これは果して民俗学の学問的著作だろうかという思いを、私はずっともちつづけている。 思いきって、「旅の本」とでも呼んだほうがすっきりする。旅をした結果、できた本。また旅について人びとが語ったことを聞き書した本。そんなふうに考えたほうが座りがいいのは、宮本常一が生涯にわたって旅をする人、歩く人だったからかもしれない。この歩く人は、地方を歩きながら、人びとの暮らしのなかに入っていって農業技術や生活改革の相談相手になる強力な実践者でもあった。民俗学者の座る場所から、もともとハミ出している。 『忘れられた日本人』は、全十三篇の文章を一つの民俗学的テーマが貫いているわけではない。また、一定の地域を対象にした何らかの報告でもない。一篇ずつが特有の色あいをもつエッセイ群で、そのなかでも
主人公は次々と襲いくる不幸に翻弄されながら、こんなふうに達観する。 〈彼は苦痛を、譬えば砂糖を甜める舌のように、あらゆる感覚の眼を光らせて吟味しながら甜め尽してやろうと決心した。そうして最後に、どの味が美味かったか。――俺の身体は一本のフラスコだ。何ものよりも、先ず透明でなければならぬ。と彼は考えた。〉 この文章は、横光の別の短編『花園の思想』にある〈二人には二人の心が硝子の両面から覗き合っている顔のようにはっきりと感じられた。〉と対になって、私の心に深く刻みつけられている。 己の存在を限りなく透明へ近づけていくことで、物事をありのまま感じることができる。しかし、いくら透き通ってもガラスは消えるわけではない。自己と他者の間は、いつもガラスで隔てられている。いずれ死が二人を分かつ。俺とおまえは一つにはなれない。ぶつけ合う感情のすべては届かない。それなら俺は、どうすれば良いのか。闘病生活に疲れ
〈著者プロフィール〉 1966年1月25日兵庫県神戸市生まれ。神戸市立神戸商業高等学校卒業。富良野塾二期生。96年より劇団FICTIONを主宰。 〈作品〉 『緑のさる』2012年平凡社刊=第34回野間文芸新人賞受賞。「ギッちょん」12年文學界6月号=第147回芥川賞候補、単行本は13年文藝春秋刊。「砂漠ダンス」13年文藝夏号=第149回芥川賞候補、単行本は13年河出書房新社刊。「コルバトントリ」13年文學界10月号=第150回芥川賞候補、単行本は14年文藝春秋刊。『ルンタ』14年講談社刊。「鳥の会議」15年文藝春号=第29回三島賞候補、単行本は15年河出書房新社刊。『壁抜けの谷』16年中央公論新社刊、他。 第156回直木三十五賞 『蜜蜂と遠雷』 (恩田陸 著/幻冬舎) 〈著者プロフィール〉 1964年10月25日生まれ。宮城県仙台市出身。早稲田大学卒。92年、第3回日本ファンタジーノベル大
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ビートルズ、カルチャー・クラブ、T・レックス、おニャン子クラブにSMAP……古今東西191、一世を風靡した人気バンドの解散理由を全暴露、音楽ファン悶絶の名著が文庫に。刊行を記念して、各著者による文庫未収録のコラムを5日間連続で公開します! 『バンド臨終図巻 ビートルズからSMAPまで』 (速水健朗・円堂都司昭・栗原裕一郎・大山くまお・成松哲 著) キャンディーズは73年9月にデビューし78年4月に解散した。ピンク・レディーは76年8月にデビューし81年3月に解散した。どちらも活動期間は4年半ほどであり、国民的な人気を獲得したのちに解散したという点で表面的には似た出来事のようにも見えるが、両者の「解散」が意味するところには大きな隔たりがあった。 キャンディーズは「普通の女の子に戻りたい」と叫んで解散した。ランとスーは芸能界に復帰したけれど(ミキも一時的に復帰)、結果的にそうなったという話であ
ビートルズ、カルチャー・クラブ、T・レックス、おニャン子クラブにSMAP……古今東西191、一世を風靡した人気バンドの解散理由を全暴露、音楽ファン悶絶の名著が文庫に。刊行を記念して、各著者による文庫未収録のコラムを5日間連続で公開します! 『バンド臨終図巻 ビートルズからSMAPまで』 (速水健朗・円堂都司昭・栗原裕一郎・大山くまお・成松哲 著) 主要メンバーが抜けたんだからもう終わりだな、とファンが思っても、バンドというものはなかなか解散しない。往生際が悪い。メンバー交代を繰り返し、臨終のときを必死に先送りする。プログレッシブロックやハードロックはその典型であり、ジャンル内で個々のプレイヤーが複数のバンドを行き来するのが当たり前。流浪のドラマー、コージー・パウエルなど死ぬまでにいくつのバンドに所属したのか、数えるのも面倒くさい。プログレ村、ハードロック村という互助的な共同体全体が解散しな
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羽田圭介 1985年、東京都生まれ。明治大学卒業。2003年、「黒冷水」で第40回文藝賞を受賞してデビュー。2015年、「スクラップ・アンド・ビルド」で第153回芥川龍之介賞を受賞。著書に『不思議の国のペニス』『走ル』『ミート・ザ・ビート』『御不浄バトル』『「ワタクシハ」』『隠し事』『盗まれた顔』『メタモルフォシス』などがある。 ゾンビ映画を1日1本観続けて感じた閉鎖的な感覚。それは純文学の世界と似ていた。 ――芥川賞受賞から1年と少し。そろそろ新作が読みたいなと思っていたら、どーんと出たのが実に750枚の大作『コンテクスト・オブ・ザ・デッド』(2016年講談社刊)。とてもいいタイミングで刊行されたなと思いましたが、書き始めたのは受賞よりもっと前ですよね。 羽田 そうです。書き始めたのは3年半前くらいからですね。その頃は新刊を出してもどこの書店にも置いてもらえず、何をやっても何のリアクショ
騎手として、また調教師としても活躍し、“ミスター競馬”と呼ばれた野平祐二は、温厚な性格で多くの人々から親しまれた。昭和三年(一九二八年)、千葉県船橋市生まれ。父省三も騎手であり、調教師だった。 「栴檀は双葉より芳し」の格言どおりに幼少の頃から馬に慣れ親しみ、尋常小学校卒業後、中学を辞め、競馬騎手をめざした。昭和十七年、尾形藤吉厩舎に入る。昭和十九年、初勝利を飾る。戦争の激化にともない宇都宮に疎開、馬の世話をするが、激務と栄養不良から、心身に変調をきたす。戦後の昭和二十一年、公認競馬が再開したのにあわせ、騎手に復帰する。 名騎手と呼ばれた保田隆芳とともに、モンキースタイルを普及させた。 「昭和二十三年のある日、ニュース映画を見て外人騎手が、極端に短いアブミを使い馬の首にかじりつくようにして走っているのを見て感動し、日本人騎手の今までの乗り方を捨てて、“モンキースタイル”に転向。永いスランプを
近藤ようこ1957年新潟県生まれ。79年「ガロ」に投稿し漫画家デビュー。作品に『見晴らしガ丘にて』『死者の書』等。岩波書店のサイトで夏目漱石原作『夢十夜』を連載中。 四年前に『戦争と一人の女』という本を出した。坂口安吾の『戦争と一人の女』『続戦争と一人の女』『私は海をだきしめていたい』という三つの短篇を、私なりに組み合わせて一つの話に漫画化したものだった。 日本は負けると信じている男女、国策映画の脚本を依頼されている野村と女郎あがりの女(名は与えられていない)が、どうせ戦争で滅茶々々になるなら、今から滅茶々々になろうといって刹那的な同棲生活をしている話だ。 昭和二十一年に発表された『戦争と一人の女』はGHQの事前検閲で多くの重要な部分を削除された。たとえば「空襲国家の女であった。女が野村を愛すのは、野村の中のものではなく、空襲の中にその愛情の正体があるのを、女だけが知らないだけだ。」「野村
構想5年、執筆7年――「著者渾身、文句なしの最高傑作!」と帯にあるが、本書はまさにその言葉を裏切らない。『夜のピクニック』『チョコレートコスモス』をはじめ、これまでも優れた青春群像劇を送り出してきた作家・恩田陸が、読者を壮大な未知の世界へと案内してくれる。 「ピアノコンクールを最初から最後まで小説で書いてみたいと思っていました」 舞台に設定したのは、芳ヶ江国際ピアノコンクール。新たな才能を発掘する場として、世界的にも注目を集めている。世界各国のオーディションを通り、第一次予選に臨むのは、亡き伝説的音楽家の推薦を受けた無名の風間塵(かざまじん)、かつて天才少女としてデビューしながら表舞台から消えていた栄伝亜夜(えいでんあや)、ジュリアード音楽院の秘蔵っ子マサル・カルロス、そして普段は楽器店勤めで28歳という年齢制限ぎりぎりで参加した高島明石……。 「モデルとなった3年に一度開催される浜松国際
さほど重視されていない……と書くと失礼だが、脇役がはからずもキャスティングボートを握ることがある。歴史上、その最たる例が、関ヶ原の合戦における小早川秀秋だ。 小早川秀秋は豊臣の縁者でありながら、おまけに西軍総大将の毛利に連なる家でありながら、徳川と内通して寝返りを決めていた。もちろん西軍だって引き留める。でもって当日、徳川秀忠軍が遅れたこともあり、東西の戦いはほぼ五分。気づけば小早川がどっちにつくかが勝負を決めるという状態になってしまう。このとき秀秋はまだ十九歳の若さだった。 結局、家康に急かされ脅され、西軍を攻撃する。豊臣から徳川へ、日本の覇権を動かした秀秋の〈世紀の裏切り〉は、東軍にとってみれば関ヶ原最大の殊勲だ。ところがそれほどの大仕事をやってのけた割には、歴史小説では、小早川秀秋ってロクな描かれ方をされない。というかけっこうボロクソに書かれている。 たとえば司馬遼太郎『関ヶ原』(文
第155回芥川賞を受賞した『コンビニ人間』の主人公・古倉恵子は、コンビニのバイト歴18年目。36歳未婚、彼氏なし――。コンビニを舞台に繰り広げられる物語は、現代の世相を切り取り、多くの人の共感を呼んでいます。では、実際にコンビニで働く人は、この本を読んでどう思ったのか? 大手コンビニチェーン、ファミリーマートの皆さんに感想をお寄せいただきました。そこから見えてくるコンビニのリアルとは? 主人公はコンビニ店員として驚くほど優秀! 『コンビニ人間』 (村田沙耶香 著) なんて優秀なスタッフだろう! と驚きながら読みました。私が店長だったら、主人公を雇いたいです(笑)。優秀なコンビニ店員は「後ろにも目があるの?」と思われるくらいに、背後のお客様の「音」を感じ取ってレジに戻るので、コンビニ特有の「音」に敏感になるのは納得です。またコンビニ店員は数時間で何百人ものお客様に挨拶するので、主人公のコミュ
――この小説は主人公・羽嶋賢児が似非科学と戦う物語です。似非科学とは「マイナスイオンで髪がつやつや」とか「コラーゲンを食べて肌がツルツル」といった一見それらしく見えるけれども、根拠のない偽物の“科学”。朱野さんは以前から科学に興味を持っていたのですか? 朱野 子どもの頃から科学は好きでした。理系に進みたいと思ったこともありましたが、数学が壊滅的にできなかったので(笑)、大学は文学部に進みました。でも興味だけはずっと持っていて、科学機関のメルマガも購読していました。それをきっかけに、『海に降る』という深海探査がテーマの小説も書いています。 しかし科学が好きになればなるほど、似非科学を許せなくなってきます。親戚の集まりで「がんに効くサプリメント」などという話題で盛り上がることはどの家庭でもあると思いますが、つい「そんなものはない」と口が動いてしまいます。その場はシーンとなります。話題を変えよう
桜玉吉さんの新刊『日々我人間』は、週刊文春の連載3年分150回をまとめたものです。 開始当初は東京の漫画喫茶に文字通り住んでいた玉吉さんは、連載開始から1年半たって、伊豆の山荘にその居を移しました(なぜ伊豆に家を持っているのかとか、なぜ漫喫に住んでいたのかなどは、これまでの玉吉さんの作品を手に取っていただくと何となくわかるのではないかと思います)。単行本のちょうど半分くらいで住処が変わったので、前半を「東京・漫喫編」、後半を「伊豆編」としました。 >>>【動画】玉吉インタビュー in 伊豆 『日々我人間』 (桜玉吉 著) 刊行に先立つ10月某日、伊豆に玉吉さんを訪ねました。 今回は玉吉さんが駅まで車で迎えに来てくれるというので、「踊り子号」の旅。待ち合わせの駅に到着すると、少し時間が早かったので、近くの海岸を散歩しました。そう、玉吉さんが連載第107回でかきあげそばを食べていた、あの堤防で
川村元気 1979年横浜生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業。『告白』『悪人』『モテキ』『おおかみこどもの雨と雪』『バクマン。』『バケモノの子』『君の名は。』『怒り』などの映画を製作。2011年に優れた映画製作者に贈られる「藤本賞」を史上最年少で受賞。12年には初小説『世界から猫が消えたなら』を発表。同書は本屋大賞へのノミネートを受け、130万部突破のベストセラーとなり映画化された。他著作として、中国での映画化も決定した小説第2作『億男』、絵本『ティニー ふうせんいぬのものがたり』『ムーム』『パティシエのモンスター』、対話集『仕事。』『理系に学ぶ。』『超企画会議』など。 『世界から猫が消えたなら』を書いたきっかけの一つは携帯をなくしたことだった。 ――ところで、いつも年に一度はバックパッカーとして一人で旅をすると前におっしゃっていましたよね。『四月になれば彼女は』は世界のさまざまな土地が出て
川村元気 1979年横浜生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業。『告白』『悪人』『モテキ』『おおかみこどもの雨と雪』『バクマン。』『バケモノの子』『君の名は。』『怒り』などの映画を製作。2011年に優れた映画製作者に贈られる「藤本賞」を史上最年少で受賞。12年には初小説『世界から猫が消えたなら』を発表。同書は本屋大賞へのノミネートを受け、130万部突破のベストセラーとなり映画化された。他著作として、中国での映画化も決定した小説第2作『億男』、絵本『ティニー ふうせんいぬのものがたり』『ムーム』『パティシエのモンスター』、対話集『仕事。』『理系に学ぶ。』『超企画会議』など。 苦手なものをテーマにしてきた。3作目は恋愛を書くと決めていた。 ――今年はプロデュースした映画が立て続けに公開され、どれも話題になっていますね。8月公開『君の名は。』、9月公開『怒り』、10月公開『何者』。5月には原作の『世
初代のドラマ『鬼平犯科帳』から現場に立ち続け、吉右衛門版でも二十八年間を務め上げた宇仁貫三氏にインタビュー。 宇仁貫三(うにかんぞう)は、中村吉右衛門版『鬼平犯科帳』のシリーズ開始当初から二十八年間、殺陣師(たてし)として作品に携わり続けてきた。 「『鬼平』と関わっている時間が物凄く長かっただけに、今回で最後という話を最初に聞いた時は二日ぐらい寝付けなかったです。 最後の撮影に臨むということに興奮しているのもありましたし、『これで終わりなんだ……』という寂しさもありました。そういう、いろいろ複雑な感情が入り混じりまして、しばらくの間はどうすればいいのか分からなくなっていました。それまで、『鬼平』が終わるということは全く考えていませんでした。行けるところまでやるんだろうという感覚でしたから」 最終作となる「雲竜剣」は、吉右衛門の娘婿でもある尾上菊之助が演じる虎太郎、田中泯が演じる伯道、そして
高見沢俊彦たかみざわとしひこ/1954年、埼玉県生まれ。74年デビューのTHE ALFEEリーダーで作詞、作曲、ギター、ボーカルを担当。現在全国ツアー「Best Hit Alfee秋フェス」を開催中。 幼い頃、お気に入りの場所は父の本棚の前だった。見上げる感じで、眺めるのが好きだった。教育者だった父は仕事柄、普通の家より本は多かったが、本人自身も読書が好きだった。自分はというと、そんな父の本棚をボーッと眺めているだけで、父親イコール大人という未知の世界を垣間見ている気になっていた。 そんな父の本棚から、いつも強烈な印象と共に目に飛び込んで来るのは、それらの本の背表紙を飾る、さまざまな本のタイトルだった。読めるタイトルもあれば、読めないタイトルもある。読めても理解不能なタイトルなどもかなりあったと思う。中でも佐藤春夫の『田園の憂鬱』や萩原朔太郎の『月に吠える』などは印象深く、今でも初めてそれ
抗がん剤の開発はいまや世界的に頭打ち状態。新薬は30万ドルに達する勢いで値上がりを続け、いかに副作用を少なくするかで各社競い合っています。流行の分子標的薬も、高額のわりに狙い撃ちできるものは少ないようです。そんな中、著者の奥野さんは、がん治療の歴史を塗り替える画期的な抗がん剤に出会いました。 ◆ ◆ ◆ ――本書を書こうと思ったきっかけは。 5年ほど前から「なぜ抗がん剤は効かないのか」というテーマで取材をしており、前田浩先生(熊本大学名誉教授・崇城大学DDS研究所特任教授)に話をうかがったのがきっかけです。先生は80年代に開発が進んだ、腫瘍だけに薬剤を届ける「DDS(ドラッグ・デリバリー・システム)」の提唱者。「いますごい抗がん剤を開発している」とおっしゃるので、半信半疑で取材を始めたんです。先生は腫瘍を取り巻く血管が穴ぼこだらけであるのを発見し、その腫瘍だけに薬剤が留まるよう、既存の抗が
『あしたはひとりにしてくれ』 (竹宮ゆゆこ 著)――男子高校生の瑛人が主人公の物語は、どのようなところから生まれたのでしょうか。 まだ、物語が定まっていないときに、担当の編集者さんとの打ち合わせのなかで、フィギュアスケートの羽生結弦選手が話題に上がったんです。ちょうど、試合前に怪我をしたときで、その鬼気迫る姿が「鬼神」のようでした。そのときに、傷を負いながらも凛とした男子の姿に、すごく鮮烈な印象を受けたんです。みずみずしい男子のよさがあった。羽生選手はモデルではありませんが、瑛人という十代の男子高校生を主人公に定めるきっかけになりました。 ――瑛人は、家族思いのとても「いい子」ですが、ひとしれず孤独感に苦しんでいる。いわば「孤独をこじらせた」少年です。 瑛人は自分だけが孤独だと思っています。でも、私は、一歩目に「深いところではみんなそうだよ」ということを書きたかった。二歩目に「そして、君も
4月、はじめて付き合った彼女から手紙が届いた。 そのとき僕は結婚を決めていた。愛しているのかわからない人と。 天空の鏡・ウユニ塩湖にある塩のホテルで書かれたそれには、恋の瑞々しいはじまりとともに、二人が付き合っていた頃の記憶が綴られていた。 ある事件をきっかけに別れてしまった彼女は、なぜ今になって手紙を書いてきたのか。時を同じくして、1年後に結婚をひかえている婚約者、彼女の妹、職場の同僚の恋模様にも、劇的な変化がおとずれる。 愛している、愛されている。そのことを確認したいと切実に願う。けれどなぜ、恋も愛も、やがては過ぎ去っていってしまうのか――。 失った恋に翻弄される12カ月がはじまる。 音もなく空気が抜けるように、気づけば「恋」が人生から消えている。そんな時僕らはどうすべきか? 夢中でページをめくった。新海 誠(アニメーション監督) イノセントかつグロテスクで、ずっと愛を探している。川村
『流しの下のうーちゃん』 (吉村萬壱 著)『虚ろまんてぃっく』 (吉村萬壱 著)『ハリガネムシ』で第129回芥川賞を受賞し、近年は『ボラード病』『臣女』『虚(うつ)ろまんてぃっく』など、現代社会への鋭い批評眼が光る話題作を発表している吉村萬壱さん。以前からその画力にも定評があったが、今回、初となる描き下ろしの漫画作品を発表した。 「前作の短編集『虚ろまんてぃっく』の表紙に、自分の描き下ろしの絵を採用してもらったんです。その評判が良かったのか、同じ担当の方から漫画を描いてみませんか、と依頼をもらったのがきっかけでした。描きはじめの時点で漫画を描こうという意識があったかも定かでないのですが、まずは7ページ分をサンプルとして送ってみたら、『面白いから続きを描いてください』と言っていただいて。それで毎月締め切りを設けて描いていきました。最初は“小説家の書けない日常”を、淡々と私小説風にでも描こうか
『神経症の時代 わが内なる森田正馬』 (渡辺利夫 著) 職業柄、腰痛持ちである。もう十数年前になるが、ほかの人はどうしているのかという軽い好奇心で『椅子がこわい 私の腰痛放浪記』という本を読んだ。著者は『Wの悲劇』などのヒット作で知られる作家の夏樹静子で、のたうち回るような地獄の苦しみと、そこから抜け出して劇的に回復するまでの道のりを描いた闘病記だった。 椅子に座り続けて仕事をする者として、夏樹の経験は決して他人事ではなかった。夏樹と同様、私も整形外科や鍼灸や指圧に通い、プールで筋肉を鍛え、なんとしても治してやろうと必死になればなるほど痛みが増すという悪循環に陥っていた。それでもまだ、自分のほうがずいぶんましだと慰められるような想いで読み進め、中盤、夏樹に医師の診断が下ったところで絶句した。夏樹が苦しんでいた腰痛に器質的な問題はなく、心身症と呼ばれる心因性のもの、すなわちメンタルが原因だっ
長野県塩尻市は、人口6万7千人の小都市だ。その市立図書館の試みが、全国から注目を集めている。年間600人から800人もの図書館関係者が、視察のために日本各地から訪れるという。試みの中心にあるのが「信州しおじり 本の寺子屋」だ。本書は、その軌跡を丁寧に検証しつつ、図書館のありかた、ひいては本というものの可能性について考える、熱い一冊である。 元館長の内野安彦氏と編集者の長田洋一氏の出会いから、それは始まった。内野氏は「旧市街地の活性化のために、図書館を核とした複合施設をつくるプロジェクト」のため、茨城県からヘッドハンティングされてきたという変わり種。図書館長の経験もある本好き、図書館好きの人物だ。いっぽう長田氏は、文芸誌の編集長を務め、多くの作家と共に本を作ってきた。出版社退職後、長野へ拠点を移したベテラン編集者。二人の出会いから、図書館を、書き手と読み手の交流の場、図書館員や地域の人々の学
真田昌幸パパの喪中につき今回の更新はお休みさせていただきます。 ――てなわけにもいかないようなので書く。書きますとも(泣)。『真田丸』開始以来、視聴者は室賀ロス・秀次さまロス・おばばさまロスをなんとかくぐり抜けてきた。そして超高速関ヶ原。治部&刑部ロスの痛みも癒えないうちに、ついにこの日が来ちまったよパパン……。 ドラマでは信繁に後を託し、家族と家臣に看取られて旅立ったパパだったが、その場面、小説ではどう描かれているんだろう? ということで今回は、昌幸の最期が登場する小説を三冊、読み比べてみる。テキストは中村彰彦『真田三代風雲録』(実業之日本社文庫)、真田小説の永遠の金字塔・池波正太郎『真田太平記』(新潮文庫)、火坂雅志『真田三代』(文春文庫)だ。 まず前提として、昌幸と愉快な仲間たちが九度山にいた頃は、家康と淀君が「秀頼ぃ、京都まで出てこいよー」「きーっ、うちの子気安く呼ぶんじゃないわよ
村田沙耶香 2003年『授乳』で第46回群像新人文学賞優秀作に選ばれデビュー。09年『ギンイロノウタ』で第31回野間文芸新人賞、13年『しろいろの街の、その骨の体温の』で第26回三島由紀夫賞を受賞。16年、『コンビニ人間』で第155回芥川賞を受賞し、ベストセラーに。主な作品に『タダイマトビラ』『殺人出産』『消滅世界』など。 思い入れが強すぎて冷静に書けないと思っていた ――まずは『コンビニ人間』(2016年文藝春秋刊)の芥川賞受賞おめでとうございます。主人公は長年にわたりコンビニエンスストアでのアルバイトをしている古倉恵子。本人はその生活に満足しているのに周囲から「30代後半で未婚・アルバイト」という点を心配されて居心地の悪さを感じています。村田さんご自身も長年コンビニでアルバイトしている点も注目されていますが、まずは受賞の実感を。 村田 少しずつ、夢ではないんだな、って思えてきました(笑
万智ちゃんを先生と呼ぶ子らがいて神奈川県立橋本高校 この一首ができたとき、特に下の句が嬉しかった。当時自分が勤めていた高校の名前が、そのまますっぽり収まった。校門のところにも、学校の封筒にも、記されている「神奈川県立橋本高校」が、なんだか照れくさそうに喜んでいた。 こんなふうに、現実世界にある言葉の連なりが、短歌の一部に収められることは珍しくない。が、そのすべてが「偶然にも、現実世界に存在していた五七五七七」だったら、どうだろう。 コンピュータのプログラムによって、ウィキペディアから抽出された五七五七七。それが「偶然短歌」と名付けられた。名付け親は、プログラムを作ったいなにわさん。偶然短歌発見装置ともいうべきプログラムによって、ウィキペディアからは5000首もの偶然短歌が見つかったという。その中から100首を選び、作家のせきしろさんがコメントをしたのが、本書である。 その人の読む法華経を聞
2016.09.16 インタビューほか アメリカ ギフテッド教育に学ぶ、子供の好奇心を伸ばすことの大切さ 石角友愛×本山勝寛 「本の話」編集部 『アメリカ ギフテッド教育最先端に学ぶ 才能の見つけ方 天才の育て方』 (石角友愛 著) 『アメリカ ギフテッド教育最先端に学ぶ 才能の見つけ方 天才の育て方』 (石角友愛 著)本山 石角さんは、今回、『アメリカギフテッド教育最先端に学ぶ 才能の見つけ方 天才の育て方』という本を書かれたわけですが、なぜギフテッド教育の本を書こうと思われたのですか? 石角 うちには6歳の娘と、2歳の息子がいるのですが、娘が3~4歳くらいの時から、親として娘にいろんなポテンシャルを感じ始めたんです。どこの子供さんもそうかもしれませんが、3歳くらいからいろんな質問をするようになり、それが、人はどこから生まれてきたのかとか、一番最初の人間は誰だったのかとか、すぐには答えら
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