サクサク読めて、アプリ限定の機能も多数!
トップへ戻る
大谷翔平
natgeo.nikkeibp.co.jp
鳴き鳥のホオアカアメリカムシクイ(Setophaga tigrina)とマミジロアメリカムシクイ(Leiothlypis peregrina)。写真は縄張り争いの最中だが、これらの渡り鳥は旅の途中で複雑な社会的ネットワークをつくっている可能性がある。(PHOTOGRAPH BY ROLF NUSSBAUMER/NATURE PICTURE LIBRARY) 米国では今まさに、何十億羽もの鳥たちが南の越冬地に向かって羽ばたいている。鳥の渡りは毎年恒例の出来事だが、その範囲と規模があまりに大きく、完全に理解するのは難しい。しかしこのたび、渡り鳥の生態をかつてないほどのぞき見られる最新の研究結果が発表された。 8月13日付けで学術誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に発表された研究では、米国北東部と五大湖地域にある渡り鳥の中継地5カ所で集めた標識調査の記録50万点以上を分析したところ、異なる
ブリトニー・デイビスさんの愛犬「ゼウス」は、2023年に死ぬまで、世界一背が高い犬としてギネスの世界記録に認定されていた。(Photograph By © Guinness World Records Limited) ブリトニー・デイビスさんは、かねてから大きなイヌを飼いたいと願っていた。生後8週のグレート・デーンを家に迎え入れたとき、その夢がかなったと思ったのだが、話はそこで終わらなかった。 「ゼウス」と名付けられたデイビスさんの愛犬は、巨大なイヌに成長した。4本足で立ったときの肩までの体高が1メートルを超え、後ろ足だけで立つとデイビスさんの背丈をはるかにしのいだ。ついには、「世界一背が高い犬」としてギネスの世界記録に認定され、地元米テキサス州フォートワースの人気者になった。 ところが、ゼウスがやってきてからわずか4年後に、デイビスさん一家は悲しい別れを経験することになる。大きな体は弱
発がん性など健康への影響が懸念される有機フッ素化合物「PFAS(ピーファス)」が全国の河川や地下水などから相次いで検出されており、検出地点付近の住民の不安も高まっている。政府は事態を重視し、環境省を中心に対応策を進めている。同省では現在、PFASに特化した水道水の汚染状況調査を実施中で、専門家会議では水道水の暫定目標値の見直しに向けた議論を始めた。 PFASは人工的に作られた物質で長く身近な製品にも使われてきた。代表的な物質は既に製造と輸入が禁止されているが、自然環境では分解されにくく、過去に廃棄された分が残留している。米国の環境保護局(EPA)が厳しい飲料水基準を設けるなど、欧米では基準厳格化の流れになっている。「安心・安全な水」は国民にとって重要な生活基盤だ。日本でもPFAS汚染状況についての正確な実態把握と客観的なデータに基づく適切な対策が求められている。
9月15日、タイのカオキアオ動物園で、生後2カ月のメスのコビトカバ、ムーデンが飼育員に水をかけられている。ムーデンは最近、インターネット上で旋風を巻き起こしている。(PHOTOGRAPH BY LILLIAN SUWANRUMPHA/AFP VIA GETTY IMAGES) タイの動物園で夏に生まれた「ムーデン」が、インターネット上で旋風を巻き起こしている。ムーデンは「弾むブタ」「豚肉団子」「叉焼」などの意味で、光沢のあるパープルピンク色のぽっちゃりしたコビトカバだ。 コビトカバ(Choeropsis liberiensis)はカバ科の現生種2種の一つだ。もう一方は、科の名前にもなっているおなじみのカバ(Hippopotamus amphibius)だ。 カバとコビトカバは形も色も似ているが、並べてみると、違いはすぐにわかる。 「主な違いは大きさです」とコビトカバを飼育している米ピッツバ
睡眠不足、不眠、眠気、夜勤(交替勤務)、夜間頻尿、睡眠薬、認知症……。 一般向けの講演会では企画側からテーマについて要望をいただくことが多い。上のリストはその一例で、中でも睡眠不足は群を抜いてリクエストが多い。聴講者から事前に質問が送られてくることもあり、その中でも「睡眠不足の悪影響」「睡眠不足の解消法」「短時間睡眠法」などがやはり人気だ。「科学的に証明された短時間睡眠法はありません」と回答して失望を買うこともしばしばだが、せめて睡眠不足を解消するにはどのような眠り方をしなくてはならないかしっかりと勉強して帰宅していただくことにしている。 睡眠不足は英語では「sleep loss」もしくは「sleep debt」と記載されることが多い。後者は日本語では睡眠負債と翻訳され、以前流行語大賞にノミネートされたこともある。負債と表現するのは睡眠不足の悪影響が借金のように蓄積するためである(第9回「
男性型脱毛症は、頭頂部の髪がアンドロゲン(男性ホルモン)に反応することで起こる。しかし、女性型脱毛症については知られていないことが多く、アンドロゲンがどう関係しているのか、または別の何かが関係しているのかもわかっていない。(PHOTOGRAPH BY PETER FINCH, GETTY IMAGES) 脱毛症は命に関わる病気ではないが、人の人生を変えてしまうことはある。髪を失うのは自分自身を失うことにも等しいと思う人は多い。 脱毛症は驚くほど一般的だ。米国脱毛症協会によると、米国人男性の3人に2人が、35歳までに髪が薄くなっていることに気付くという。50歳になると、その割合は85%にまで上昇する。さらに、男性ほど語られはしないものの、女性で薄毛になる人も多く、米国の場合、脱毛症の経験者の約40%が女性だという。 これほど多くの人が経験するというのに、脱毛症についてわかっていることは意外な
2022年の遠征調査中に発見され、後にPristimantis ruidusと同定されたメスガエル2匹のうち1匹。この種が生きた状態で撮影されたのはこれが初めてだ。(PHOTOGRAPH BY JAIME CULEBRAS) 生物学者のフアン・サンチェス・ニビセラ氏率いるチームは2022年、エクアドルのアンデス山脈にあるモレトゥロの森を探検していた。夜、数キロ離れたサンガイ火山が絶え間なく音を立てるなか、研究チームは満月の下で、新種や希少種、行方不明の両生類を探した。 一瞬、火山の音がやみ、月明かりが森の真ん中にある倒木の下を照らし出した。彼らが近づいてみると、その場で識別できない小さなカエルが2匹いた。研究チームは2024年8月13日付けの学術誌「Zoosystematics and Evolution」に論文を発表し、2匹のカエルはPristimantis ruidusという種だと報告
米マイアミのキューバ料理店「ラ・パルマ」では、砂糖をまぶしたチュロスを濃厚なホットチョコレートにつけて食べる。チュロスは古代ペルシャが発祥だという説がある。チュロスのように、世界に広がるうちにさまざまな文化と混ざり合って進化し、変わっていく料理は多い。(Photograph by SCOTT MCINTYRE, The New York Times/Redux) 食べ物の起源を突き止めるのは容易ではないし、論争になりがちな話題だ。ベーグルを例に挙げよう。最初にベーグルが作られたのは1610年のポーランドのクラクフだという説もあれば、17世紀後半のオーストリア、ウィーンが発祥だとする説、さらにはさかのぼって14世紀のドイツで生まれたオブワルザネクではないかとする説もある。(参考記事:「独自の進化を遂げた大人気の朝食パン、ベーグルの知られざる歴史」) ある料理が世界に広がり、進化して名前も変わ
コンマゲネ王国のアンティオコス1世の霊廟でかつて立っていた巨像の頭部は現在、自身の体の前に置かれている。トルコのネムルト山にある遺跡の東側テラスにて。(Yasin Akgul/Getty Images) トルコ東部のネムルト山の頂上には「世界八番目の不思議」がある。もちろん、その候補のひとつということだが、標高2000メートルを超える山の頂にあるのは、古代の王の墓とされる塚(マウンド)を10体の巨大な像が囲む孤高の聖域だ。古代のギリシャとペルシャ両方の遺産を受け継いだ壮大な石の建造物には、その宗教と埋葬の慣習が色濃く表れている。 現在のトルコ南東部の山岳地帯に位置するコンマゲネは、ヘレニズム時代はシリア王国(セレウコス朝)の属州だった。ヘレニズム時代をもたらしたアレクサンドロス大王が紀元前323年に死去すると、マケドニア軍の将軍セレウコス1世ニカトールがこの地域を支配する。(参考記事:「ア
50年生きることもあるイタヤラ(Epinephelus itajara)も、米フロリダ・キーズ諸島で奇妙な円を描いて回転しているところが目撃された。(Photograph By David Doubilet, Nat Geo Image collection) 数カ月にわたる根気強いデータ収集と検査の結果、科学者は米フロリダ沖で魚がぐるぐると回りながら死ぬ原因を突き止めた。有毒な藻類の組み合わせが原因だったのだ。 2023年11月、フロリダ・キーズ諸島の住民が、絶滅危惧種であるノコギリエイ科のスモールトゥース・ソーフィッシュ(Pristis pectinata)などの魚が円を描いて泳ぎ、その後死んでしまうことに気づき始めた。科学者は後に、ブダイの仲間やオオメジロザメ(Carcharhinus leucas)、イタヤラ(Epinephelus itajara)など、80種類以上の魚でこの現象
薬剤師が抗がん剤のドキソルビシンを点滴バッグに注入しているところ。この薬は腫瘍細胞のような急速に分裂する細胞を破壊する有毒な化学物質であるため、薬剤師は防護服を着用し、密閉容器を使って作業を行っている。(PHOTOGRAPH BY COLIN CUTHBERT, SCIENCE PHOTO LIBRARY) 英ウィリアム皇太子の妻キャサリン妃は2024年3月末、がんを患っていることを公表して世界を驚かせた。がんの種類やステージについては明らかにしなかった一方、キャサリン妃は、自身が「予防化学療法」を受けていると言及した。 ケイト・ミドルトンとの呼称でも知られるキャサリン妃は、2024年1月、事前に録画された動画で、当時はがんではないとされていた症状で腹部の手術を受けたと公表した。しかし、その後の検査によってがんが見つかり、医療チームが「予防化学療法(preventative chemoth
大半の金は石英の鉱床から採掘されるが、大きな金塊が具体的にどのように石英の中に形成されるのかは、これまで謎のままだった。(PHOTOGRAPH BY COLIN HAWKINS/GETTY IMAGES) 歴史上、人々はいつも懸命に金を追い求めてきた。しかし今では、金塊を探し出すのはそう難しくない。世界中の金塊の多くは、石英(水晶)の天然鉱脈から見つかるからだ。ただし、そもそも金塊がどのようにして石英の中に閉じ込められたのかという地質学的なプロセスは、謎のまま残されていた。 2024年9月2日付けで学術誌「Nature Geoscience」に発表された新たな研究により、この謎に対する驚くべき、かつ説得力のある一つの解答がもたらされた。その答えとは、電気と地震、それも、たくさんの地震だ。 金塊が石英の中に存在するのは、石英が電気的に奇妙な性質をもつためだ。圧縮されたり、揺らされたりすると、
ナイルの港湾都市だったトロニス=ヘラクレイオンの遺跡で見つかった巨大な像。(Christoph Gerigk. © /Franck Goddio/Hilti Foundation) 海に沈んだ古代の都市は、神話の物語ではない。古代の世界では、実際に多くの沿岸の都市が押し寄せる波に飲まれ、家も街路も神殿もすべて道連れにして、海の底に消えていった。だが、海底に沈んだために誰もかつての都市にたどり着けず、何千年もの間に伝説が渦巻き、いつしか幻と化した。 しかし、20世紀に入ると、海洋学や海洋科学の目覚ましい進歩によって、水中考古学への扉が開かれる。現代の考古学者たちは、音波探知機、ロボット工学、3Dスキャン、水中カメラといった最新のテクノロジーを駆使して、古代の海底遺跡を見つけ、調査している。おかげで、海底遺跡の地図が新たに作成され、遺物が回収され、古代の都市の物語が再び現実となった。ここでは、
汚染された肉、特に鶏肉は、尿路感染症を引き起こす大腸菌を広めるおそれがある。畜産での抗生物質の過剰な使用も問題のひとつだ。(PHOTOGRAPH BY WILLIAM WIDMER, THE NEW YORK TIMES/REDUX) 近年、尿の通り道に起こる感染症(尿路感染症)になる人が増えている。研究によれば、世界ではここ数年、毎年4億人以上が尿路感染症にかかり、20万人以上が死亡している。尿路感染症によって失われた健康な年数(障害調整生命年、DALY)は、1990年から2019年の間に68.9%も増えた。 尿路感染症は、健康な人なら治療をしなくてもそのうちに自然に治るが、高齢者や複数の疾患を抱えている人では、抗生物質での治療が必要だ。しかし、尿路感染症を引き起こす細菌は、一般的な抗生物質への耐性を獲得しつつある。 「尿路感染症は米国の医療システムにとって非常に大きな負担となっていて、
水面に立つ孵化したばかりの蚊。蚊はこのような水のある場所で育ち、多くの病気を媒介し、毎年70万人近い死者を出している。この蚊を根絶できたとしたら、人類には利益となるのだろうか?(Photograph By Ingo Arndt/Nature Picture Library) 米国では今、蚊が大きな話題になっている。8月下旬、米国東部で東部ウマ脳炎ウイルスの人への感染が確認され、米マサチューセッツ州オックスフォード一帯に、夜間の外出を控える勧告が出された。米国立アレルギー感染症研究所の元所長であるアンソニー・ファウチ氏も、ウエストナイルウイルスに感染して入院してニュースになった。いずれも蚊が媒介する致死的な感染症の病原体だ。 蚊が媒介する病気が話題になると、決まって注目されることがある。魔法のように蚊を消し去ることができるとしたら、いったいどうなるのだろう? 生態系や私たちにはどんな影響が生
クレーコートでの試合中、サーブするテニス選手。(PHOTOGRAPH BY WUNDERVISUALS, GETTY IMAGES) 今年もテニスの全米オープンが行われ、観客動員数の最高記録が再び塗り替えられた。11世紀から続くこのスポーツに、2024年も多くの人が感嘆した。(参考記事:「全米オープンだけでも10万個、使用済テニスボールの意外な末路」) 「テニスは人間の力、優雅さ、知性、機知、バランス、スピード、喜び、悲しみ、強い意志を見せてくれます」と神経学者のブライアン・ハインライン氏は語る。ハインライン氏は全米テニス協会の会長で、全米大学体育協会(NCAA)の最高医療責任者だった経歴を持つ。 テニスは見る者をくぎ付けにし、プレーするのも楽しいだけでなく、心身の健康にも良い。 「テニスがこれほど長く続いているのは、あえて仲間との交流を楽しむ『ソーシャルダブルス』から競技性の高いシングル
2024年7月11日、国際宇宙ステーション(ISS)で撮影されたNASA宇宙飛行士のチーム写真。(下から時計回りに)マシュー・ドミニク氏、ジャネット・エップス氏、スニタ・ウィリアムズ氏、マイク・バラット氏、トレイシー・ダイソン氏、バリー・ウィルモア氏。(Photograph by NASA) ボーイング社の新型宇宙船「スターライナー」の技術的な問題により、宇宙飛行士のスニタ・ウィリアムズ氏とバリー・ウィルモア氏は、予定を大幅に超えて国際宇宙ステーション(ISS)に長期滞在することになった。しかし、宇宙に「取り残された」宇宙飛行士は、この2人が初めてではない。また、同じようなことはこれからも起こりうる。 地政学的な理由や自然がもたらすリスクなど、様々な理由で飛行士の宇宙滞在が予定よりも長引くことはたまにある。そして、宇宙飛行士も宇宙機関も、このような事態を想定して準備をしている。 乗って帰る
グリーンランドのセルメルソークにあるスキョルドゥンゲンの丘。雨の中、大きなバックパックを背負い、登っていく4人のハイカー。軍隊での訓練が元になったラッキングも、ちょうどこんな感じだ。筋力や持久力をつけるエクササイズとして、世界中のフィットネス愛好家から今、注目を集めている。 (Photograph by Andy Mann, Nat Geo Image Collection) ラッキング(英国ではヨンピング、タビングともいう)は、兵士が重いリュックを背負って歩き、持久力や筋力、精神力を鍛える軍事訓練を起源とするエクササイズだ。今、ジムの器具を使わずに効果的にトレーニングしたい人々の間で人気が高まっている。 フィットネス専門家も勧める注目のエクササイズは、手軽に始められて体力を向上でき、メンタルヘルスにもいい。もしかすると、自分ではそうと気づかないうちにラッキングを実践して、すでに効果を得て
1824年に日本で制作された孫悟空の浮世絵版画。DCコミックスやマーベル・コミックスといったアメリカン・コミックスも孫悟空に大きな影響を受けた。日本では孫悟空からヒントを得た漫画『ドラゴンボール』が生まれている。(PHOTOGRAPH COURTESY THE METROPOLITAN MUSEUM OF ART, NEW YORK, H. O. HAVEMEYER COLLECTION, BEQUEST OF MRS. H. O. HAVEMEYER, 1929) 孫悟空は、中国で16世紀に完成した小説『西遊記』に登場する、人間の性質と能力を持つサルだ。如意棒を武器に活躍し、中国文学の中で最も愛される息の長いキャラクターのひとつになっている。 誕生以来、洋の東西を問わず数々の映画、テレビドラマ、漫画、アニメ、ゲームなどで取り上げられてきた孫悟空。そして、中国製ビデオゲーム「黒神話:悟空」
私たちの脳のニューロンが手足を動かすのと同じように、エリンギの菌糸体が光の合図に反応して電気インパルスを発し、ロボットを動かす指示を出す。(VIDEO BY ANAND MISHRA) ヒトデのような形をしたロボットが、5本の脚を開いたり閉じたりしながら木の床の上をぴょこぴょこと移動してゆく。ロボットを制御しているのは真菌からの信号だ。2024年8月28日付けで学術誌「Science Robotics」に発表されたこの新しいロボットは、米コーネル大学の研究チームが開発した。 彼らは生物をヒントにし、生物と融合したロボットを作ることを目標にしていて、今回の研究では真菌が制御する車輪付きロボットも開発している。 植物、動物、真菌の細胞を合成素材と組み合わせてロボットを作る「バイオハイブリッドロボティクス」は、比較的新しい研究分野だ。これまでに、マウスのニューロン(神経細胞)を使って歩いたり泳い
アリストフィル社の展示会で披露された、サド自筆の『ソドムの百二十日』手稿。(Mcleclat / Wikimedia Commons / Public Domain) 書籍『サド侯爵の呪い 伝説の手稿『ソドムの百二十日』がたどった数奇な運命』(日経ナショナル ジオグラフィック)には主題となったサドの『ソドムの百二十日』を筆頭に、『ファニー・ヒル』(ジョン・クレランド著、18世紀英国のエロティカ小説)や『我が秘密の生涯』(19世紀の匿名作家による性愛遍歴を赤裸々に描いた自伝風の小説)など、かつては公然と読むことができなかった作品がいくつも出てくる。当時は秘密裏に出回り、読んだら捨ててしまう人までいたが、『サド侯爵の呪い』はこうした作品の存在なくしては語れない。 というわけで、第3回は、禁書の烙印を押された作品についてお話しさせてください。 フランスでは、サドの本は禁書の扱いを受けており、暗黒
フォーラーネグレリア(Naegleria fowleri)というアメーバは、多くの場合、鼻に淡水が入ったときに人間に感染する。脳の炎症を引き起こして頭痛や嘔吐をもたらし、治療をしなければ、患者は昏睡状態から死に至る。(LONDON SCHOOL OF HYGIENE & TROPICAL MEDICINE, SCIENCE SOURCE) 猛暑の中、池で泳いだ14歳の少年。学校の遠足でプールに入った13歳の少女。自宅近くの川で水浴びをした5歳の少女。インド南部ケララ州の異なる地域に住んでいた3人の子どもたちは「原発性アメーバ性髄膜脳炎(PAM)」で死亡した。温かい淡水や管理の不十分なプールに生息する微生物が引き起こす脳の感染症だ。また、27歳の男性も命を落としている。 「この3カ月間で、ケララ州では15件のPAMが報告されています。これまでは年に1件程度でしたから、大幅な増加です」と、ケラ
配偶者を亡くした隣人に食事を運ぶ女性。こうした親切な行いは社会的な絆を強め、親切にする側とされる側の双方の心身の健康の向上につながることが、研究によって示された。(Photograph by Danielle Amy) 近頃では、隣の家に砂糖を借りに行く時代は過ぎ去ったように見える。便利なアプリは、友人に頼らなくても小さな問題を解決してくれる。ライドシェアサービスを利用すれば空港まで送ってもらえるし、ギグワーク・アプリ(単発・短期の仕事を発注するアプリ)を利用すれば重要な会議中に愛犬を散歩に連れて行ってもらえる。 しかし、これらのツールは便利な反面、「人間関係を犠牲にする」おそれもあると指摘するのは、米スタンフォード大学の心理学研究者で、人工知能(AI)を利用したメンタルヘルスケアを提供する新興企業フローリッシュの共同創業者シュアン・ジャオ氏だ。 最近のさまざまな研究によると、コロナ禍の間
新約聖書の黙示録に登場する7つの頭を持った竜。19世紀のフレスコ画。(PHOTOGRAPH BY NPL - DEA PICTURE LIBRARY/W. BUSS, BRIDGEMAN IMAGES) 竜は、地球上のほぼすべての文化に存在し、昔から様々な大陸の民話、文学、芸術に登場してきた。鋭い爪に硬い鱗、尖った歯といった恐ろしい特徴をあわせ持つ竜は、人間の最も原始的な恐怖心から生まれ、現実世界で直面する危険について互いに警告するために用いられたと、研究者たちは考えている。 しかし現代になっても、竜はなぜこれほどまでに人々の想像力をかきたててやまないのだろうか。その秘密を解くカギとなりそうな6つの壮大な神話を紹介しよう。 ングウィ――世界最古の竜伝説 ヘビのような神ングウィは、様々な神話に影響を与えた。この16世紀の絵画に描かれているミズガルズの大蛇ヨルムンガンド伝説(北欧神話)もその一
スペインのカディス港にある灯台と要塞は、かつてフェニキア人の世界の西の限界を示していた。伝説によると紀元前1100年頃に「ガディル」(フェニキア語で「城壁」の意味)として建設されたカディスは、フェニキア人にとって重要な植民地となった。ここで、彼らは現地の人々と定期的に接触した。(CAVAN IMAGES/AGE FOTOSTOCK) 歴史家たちは、紀元前に繁栄していた古代社会タルテッソスがなぜ消えたのかを、今日に至るまで完全には説明できていない。発掘調査により、一夜にして消滅したかのようなこの先進的な多文化文明のことがより詳しく明らかになるにつれ、新たな疑問が生じている。 ヨーロッパ南西部のイベリア半島の南海岸沿いで勢力を拡大したタルテッソスは、紀元前10世紀に同半島に初めて到達した航海商人の集団であるフェニキア人と強いつながりがあったと考えられている。 フェニキア人は、現在のレバノン、シ
ハンドウイルカのオス(フランス領ポリネシアのランギロア海峡で撮影)はメスを積極的に守る。(PHOTOGRAPH BY GREG LECOEUR, NAT GEO IMAGE COLLECTION) 水族館でおなじみのハンドウイルカと聞けば、多くの人は遊び好きで好奇心旺盛な動物をイメージするだろう。実際、映画や水族館では、イルカの人懐っこさが強調されている。 だが、2024年の夏には福井県でイルカが人間を噛むニュースが話題となった。ハンドウイルカの邪悪な一面なのだろうか? そう思ってTikTokやYouTubeを見回せば、イルカの「知られざるダークサイド」を紹介する動画があったりする。 しかし、動物を悪者にすれば、憂慮すべき結果を招くことがある。例えば、映画『ジョーズ』をきっかけに、人々はホホジロザメを恐れるようになり、この頂点捕食者のトロフィーハンティング(娯楽としての狩猟)がブームになっ
土壌中に存在する放線菌が産生する「プラディミシンA」という天然物質が、新型コロナウイルスの感染を抑えることを、名古屋大学などの研究グループが発見した。ウイルス表面のスパイクタンパク質に存在する糖鎖に選択的に結合し、ヒトの細胞に刺さるのを防いでいるという。変異株に有効な感染阻害剤としての新薬開発を期待している。 プラディミシンAは日本人が1980年代に微生物の放線菌から発見した低分子化合物。100ミリリットルの放線菌を培養すると30ミリグラムが採れる高収率の天然物質だ。このプラディミシンAは糖の中でもマンノースにだけ水中で結合する特徴を持つ。同じ糖のグルコースやグルコサミン、ガラクトースには一切結合しない。 名古屋大学糖鎖生命コア研究所の中川優(ゆう)准教授(天然物化学)らの研究グループは、プラディミシンAがマンノースのみに結合する理由や、その選択性を生かした使い方ができないかといった研究を
「日本人の祖先はどこからやってきたのか」。このロマンに満ちた問いに対しては、祖先は縄文人と大陸から渡来した弥生人が混血したとする「二重構造モデル」が長くほぼ定説となっていた。そこに日本人のゲノム(全遺伝情報)を解析する技術を駆使した研究が盛んになり、最近の、また近年の研究がその説を修正しつつある。 日本人3000人以上のゲノムを解析した結果、日本人の祖先は3つの系統に分けられる可能性が高いことが分かったと理化学研究所(理研)などの研究グループが4月に発表した。この研究とは別に金沢大学などの研究グループは遺跡から出土した人骨のゲノム解析から「現代日本人は大陸から渡ってきた3つの集団を祖先に持つ」と発表し、「三重構造モデル」を提唱している。 理研グループの「3つの祖先系統」説は「三重構造モデル」と見方が重なり、従来の「二重構造モデル」の修正を迫るものだ。日本人の祖先を探究する進化人類学はDNA
祖先集団の移動や複雑な混血の実相明らかに 今春発表された理研の研究成果も、それに先立つ金沢大学や東京大学の研究成果も、DNA、ゲノム解析の技術が進化人類学と融合した賜物(たまもの)と言える。日本人のルーツだけでなく、人類のさまざまな集団が持つ遺伝的変異の系統が明らかになって人類がどのように世界中に広まっていったかが分かってきた。 人類進化の研究に新たな視点を提供したデニソワ人の名を命名したのは、2022年のノーベル生理学・医学賞を受賞したドイツ・マックスプランク進化人類学研究所のスバンテ・ペーボ教授だ。教授は約4万年前に絶滅したネアンデルタール人の骨片のゲノム解析を行ってゲノム配列を2010年に発表。欧州やアジアに住む現代人のゲノムの1~4%がネアンデルタール人に由来し、ネアンデルタール人が現生人類と交雑していた証拠を示した。 ペーボ教授はまた、2008年にロシア・シベリアのデニソワ洞窟か
次のページ
このページを最初にブックマークしてみませんか?
『ナショナルジオグラフィック日本版サイト』の新着エントリーを見る
j次のブックマーク
k前のブックマーク
lあとで読む
eコメント一覧を開く
oページを開く