人間は一面では語れない。それは経営者も同じだ。阪急阪神東宝グループの創始者、小林一三は私鉄経営のビジネスモデルを創造したことから、独創的な経営者として知られる。だが、ライターの栗下直也さんは「そもそも小林に起業家としてのプランも野望もなかった」という――。 伝説の経営者・小林一三が生み出したもの 「小林一三みたいな人はあまり最近出てこないよね」。記者時代に財界の偉い人がこうこぼしたことが妙に記憶に残っている。 「松下幸之助や本田宗一郎みたいな人がいない」「スティーブ・ジョブズのような人材が日本にはいない」とは聞き飽きるほど耳にしたが「小林一三みたいな人がいない」とはほぼ初耳だったからだ。 確かに日本の偉大な経営者列伝のような特集には必ず名を連ねているが、近年はどちらかというと元テニス選手でタレントの松岡修造の曽祖父のような文脈でしかメディアには名前が出てこない。 小林は阪急電鉄の祖であるが