crystal cage叢書: 河野道代『時の光』(TPH, 2012年)を読む これは、身辺雑記と括られるたぐいのものかもしれないが、驚くべき「性能」をもった眼を通し、磨き上げた鉱物のような光を放つ言葉をそこに配することで、これほどの高次な芸術に貌を変えることができるというお手本のような散文集である。かの女の眼と手にかかると、何でもない身辺の極めて些細なことがらどもが、突如として輝きだす。そのさまは、まるで天上から響いてくるアリアのようで、光の帯とともに「啓示」という言葉さえ頭をかすめる。寡作で知られる詩人・河野道代の紡ぎだす言葉の輝きに、心の底から魅せられたという思いでいる。 目次をひらくと二文字の言葉が整然と模様のように並んでいて、ふしぎだなと思って頁を繰り、はじめの一篇に眼を落としたのだが。 驚いた、あまりに素晴らしいので。これはもう驚いたとしか言いようがない感覚だった。わたしの拙