カントの二律背反論をめぐる問題 1. カントの二律背反論についての考察を、差し当たり理論理性の領域における二律背反論に限定するとすれば、しかも、H・ハイムゼートが行なっているようなそれの綿密な注釈は別とすれば、我々がカントの二律背反論を考察する場合、如何なるアプローチが可能であろうか。 カントは『プロレゴーメナ』(1783年公刊)において、哲学を独断的まどろみから覚醒させ、それを理性批判へと駆り立てた動機が、純粋理性の二律背反という注目に値する現象であったことを明確に表明している。この表明は晩年になっても変わることはない。1798年9月21日付けクリスティアン・ガルヴェ宛のカントの有名な書簡における以下の告白が、このことを証示している。それは、「私の出発点は, 神の存在や不死等の考究ではなく、純粋理性の二律背反でした。(中略)これは、私を初めて独断的まどろみから覚醒させ、理性の外見的な自己