ドラマ「虎に翼」(NHK)で描かれる「共亜事件」のモデルは、1934年に起こった戦前最大の疑獄事件「帝人事件」。政治学者の菅谷幸浩さんは「政財界から16人が逮捕、裁判にかけられたが、4年後には全員無罪になる。これは当時の軍部も絡んだ複雑な政局と、無根拠のマスコミ報道によって作り出された、教訓の多い歴史的事件だ」という――。 ※本稿は、筒井清忠・編著『昭和史研究の最前線』(朝日新書)の一部、菅谷幸浩「第八章『帝人事件』」を再編集したものです。 帝人事件をめぐる軍部陰謀説と平沼陰謀説 前記事で述べた中島(編集部註:商工大臣)と鳩山(文部大臣)に対する攻撃の背景として、軍部の関与を推測する先行研究もあるので、その正否から検討する。 満州事変後、陸軍では天皇親政による国家改造を目指す勢力として皇道派が生まれる。その領袖であった真崎甚三郎まさきじんざぶろう大将の浩瀚こうかんな(膨大な量の)日記が公刊