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UNRWAの活動分野は、教育、保健、社会サービス、難民キャンプのインフラ整備・環境改善、保護、小規模金融、緊急支援、と多岐にわたる[ガザ地区南部のラファでラマダン前に慈善団体から寄付された食料を受け取る人々](C)EPA=時事 UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)はパレスチナ問題の生成に関わった国連の贖罪意識が投影された組織と言える。占領者イスラエルに代わり難民の基本的生活を保障する「疑似行政機構」としての性格は、職員の99%以上が現地パレスチナ人という特殊な組織形態を必要にした。ハマスによる10月7日テロ攻撃にUNRWA職員が参加したとのイスラエルの糾弾と続く各国の資金提供停止・再開、UNRWAを介さない援助活動の模索といった動きは、こうしたイスラエル・パレスチナをめぐる大きな「思想戦」の文脈の中に位置付けて捉える必要がある。UNRWAとも良好な関係を持っていた日本は非常に苦しい
一枚の写真が論争を呼んだ。ハマス-イスラエル戦争の当事者、イスラエルを訪ねた日本の外務副大臣一行の前に並ぶのはスライスされたスイカだ。スイカはパレスチナのシンボルであり、それを「スライスして喰う」という暗黙のメッセージではないかと言うのだ。実際、外交では食事や会談場所にメッセージが込められることは珍しくない。そしてビジネスや日常生活の場面でも、同様の難題は意外に頻繁に起きている。 2024年2月28日、外務省は、イスラエルを訪問中の辻清人外務副大臣が、同国のイスラエル・カッツ外務大臣を表敬したと報道発表した。辻副大臣は、イスラエル側に対して、ガザ地区の人道支援活動が可能な環境の確保や、人質解放につながる人道的で持続可能な停戦の実現を求め、日本政府の従来の立場であるイスラエル・パレスチナ問題の二国家解決の必要性を強調した、という。 本会談の意義としては、まず日本政府の立場を明確に伝えたこと、
ドイツ・バイエルン州郊外で標識にぶら下げられた長靴。農民の抗議活動の象徴だ(leopictures / Shutterstock) 「予算措置」に違憲判決が下ったショルツ政権は、穴埋めに農家向け補助金の廃止を打ち出した。しかし農民たちはデモで抗議、各地で交通が麻痺状態に陥っている。相次ぐ政策ミスで政権支持率はさらに低下し、デモを利用した右翼政党の躍進も予想される。 * * * 1月8日、ミュンヘン、エアフルト、ハレなどドイツ各地の幹線道路、高速道路は、数千台の大型トラクターが引き起こした渋滞のために、通行できなくなった。ショルツ政権の歳出削減策に抗議するために、ドイツ農民連盟(DBV)が組織したデモである。農民たちが運転するトラクターには、「我々が農作物を作らなければ、市民は空腹になる」、「政府は我々の仕事の価値を認めてくれないのか?」などのプラカードが取り付けられている。 去年12月中旬
岸田文雄政権は所得税・住民税の減税を決めたが、インフレ対策としては消費減税こそが必要だという声も多い。だが、そこには「税の帰着(tax incidence)」という視点での消費税理解が欠けていると、小黒一正・法政大学経済学部教授は語る。(取材・構成:名古屋剛) *** ――「インフレ対策として、国民が求めているのは消費減税だ」といった意見もありますが、小黒先生は「消費減税では財・サービスの価格が下がるとは限らない」と主張しています。なぜでしょうか。 小黒一正(以下、小黒) それは、消費税が本質的に「第2法人税」の性質をもつからです。 ――「第2法人税」とは、どういう意味ですか。 小黒 法人税と消費税は課税ベースが若干異なるだけで、本質的には似た課税方法なのです。法人税の課税ベースは「売上-(原材料費+人件費)」で、消費税の課税ベースは「売上-原材料費」。これに各々の税率をかけて、税額を算出
ロシア軍は昨年12月の大統領令が示した定員132万人規模に既に達している可能性が高い[対ドイツ戦勝記念日のパレードのリハーサルに臨むロシア軍=2023年5月7日、ロシア・モスクワ](C)AFP=時事 ウクライナ侵略前は90万人台前半とみられたロシア軍は、昨年12月の大統領令で示した定員132万人を既に満たしていると考えられる。戦時増産が続く「モノ」についても、ウクライナとの相対戦力差をいずれ逆転しかねない。膨らむ国防費を賄うのは石油・天然ガス関連収入だ。価格高止まりが前提だが、当面、ロシアの戦費は尽きないだろう。だが、それは1979年のアフガン侵攻から91年のソ連崩壊へと続く歴史の再現かもしれない。 ロシアがウクライナへの侵略を開始してから丸2年が経とうとしている。この間、戦況についてはメディアが詳しく報じてきたが、侵略を行っているロシアの軍事力がどのような状態にあるのかについては意外に報
東大卒のノーベル賞受賞者で、東京の高校を卒業した人はいない (C)yu_photo / stock.adobe.com 英『ネイチャー』誌は、2023年10月25日、「日本の研究力はもはや世界レベルではない」という記事を掲載した。文部科学省は東北大学を「国際卓越研究大学」の認定候補に選定し、巨額の予算を措置するつもりだ。おそらく、その効果も限定的だろう。明治以来、巨額の予算を措置されつづけた理3の現状が、そのことを示している。 知人のジャーナリストが、東京大学理科3類(理3)についての本を出すというので取材を受けた。理3は医学部医学科へと進学する東大教養学部の科類で、日本の大学受験の最難関とされている。 知人の関心は「日本でもっとも優秀な頭脳が集う東大理3から、なぜノーベル賞受賞者が出ないか」だった。私は1987年に東大理科3類に合格した。今年は入学から38年目になる。このことについて、自
ハマスによる奇襲攻撃を防げなかった責任は、軍と諜報機関の最高指揮官である首相に帰着する。イスラエル国内は政権の司法制度改革法案で戦前からすでに分断され、予備役兵士の招集拒否など安全保障体制への悪影響も指摘されていた。「パレスチナ自治政府とハマスの分断を維持することでパレスチナ国家の成立を阻止する」と語っていたともされるネタニヤフ首相に、戦闘終結後に責任を問われるべきだとの国内世論が高まっている。 「ミスター・セキュリティ」としてイスラエルを史上最も長く率いてきたベンジャミン・ネタニヤフ首相。愛称は「ビビ」。2度の失権から這い上がり、権力をほしいままにしてきたその巧みな政治術は「キング・ビビ」の愛称に相応しいとも言える。しかし、10月7日のハマスによる攻撃を招いた大失態は、その“キング”を窮地に追い詰めている。イスラエルのハマスとの戦いは、ネタニヤフ首相の政治生命をかけた戦いと言っても過言で
残虐な殺人事件を起こし世間を震撼させた一人の少年が、更生保護委員会による「社会復帰に問題なし」との判断を得て医療少年院を出てから、来年で20年となる。社会復帰後も遺族の意向を無視して手記を出版するなど、彼の「更生」に疑問を抱く人は多いだろう。「元少年A」は本当に更生したのか。そもそも更生とは何なのか。数々の少年事件を取材してきた記者が考察する。 神戸連続児童殺傷事件をおこした酒鬼薔薇聖斗こと少年A。 すでに少年院を出て、私たちと同じ社会に暮らすAは、はたして更生しているのだろうか――。 じつは、法律には「更生」の定義がない。更生の意味合いは、きわめて曖昧で、抽象的でもある。それだけに、何をもって更生したといえるのか、はっきりしない。 それでも国が更生のために、絶対に必要だとする条件がある。 再犯をしないこと、だ。 かつて刑法に触れる行為をした少年に、再犯をさせないこと。それが、国の更生保護
今年8月、栃木県宇都宮市に誕生したLRT(次世代型路面電車)「ライトライン」。国内の路面電車としては75年ぶりの開業で全国各地からの視察が殺到している。慢性的な交通渋滞の解消、高齢者や学生の移動手段確保、周辺地価の上昇、企業誘致とメリットも多く、これからのまちづくりにおける大きなヒントとなっている。 2023年8月、栃木県宇都宮市でLRT(Light Rail Transit、次世代型路面電車)が開業した。「ライトライン」という愛称がついたLRTは、JR宇都宮駅から中心市街地とは反対の東側、芳賀町までの約15キロを結ぶ。隈研吾氏がデザインした東口交流拠点の広場横をゆったりと通り、これまで全くにぎわいのなかった駅東口、そしてその沿線の光景を大きく変えた。鉄軌道のなかった場所に一からLRTを新設する、日本初の試みである。以下、その経緯と概要、そしてその効果や今後の課題を追ってみよう。 ライトラ
「先端研創発戦略研究オープンラボ(ROLES)」による動画配信「ROLES Cast」。10月14日収録の第12回では、ROLES代表の池内恵氏と東京大学先端科学技術研究センター・グローバルセキュリティ・宗教分野の特任研究員に着任した松田拓也氏が、同月7日に発生したハマースによるイスラエルへの越境攻撃の初期状況を踏まえ国際政治に与える影響を展望した。ハマスの越境攻撃からの情勢変化を捉える記録として、ROLESCast#012、#013(上・下)を同時公開。 ※両氏の対談内容をもとに、編集・再構成を加えてあります。 池内 今回は松田拓也特任研究員との議論を通じて、現状分析をしていきたいと思います。テーマは10月7日に発生した、ガザ地区のハマースによるイスラエルへの越境攻撃です。今回の攻撃が中東の国際関係、そして国際社会全体に及ぼす影響について検討します。 松田さんは10月1日付で当センターに
パレスチナ民間人を守らなければ、ガザで「戦術的な勝利」を得られたとしても「戦略的敗北」を喫するだろう――オースティン米国防長官がイスラエルに向けた警告には、自国がイラク、アフガニスタンで犯した過ちの苦い教訓が刻まれている。イスラエル支持と国内外からの批判の板挟みとなったアメリカは再びの過ちを避けられるか。ガザへの対応の誤りは、「法の支配」「人道」といった西側諸国が示してきた規範の危機にも結びつく。 10月7日、パレスチナのガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスによるイスラエルへの越境攻撃で、外国人を含むイスラエルの民間人約1200名が犠牲となり、200名超が人質とされた。イスラエルのネタニヤフ政権は即座に、ガザでの大規模な空爆と地上戦に乗り出し、12月はじめの数字で1万5000人を超えるパレスチナ市民が犠牲になっている。12月1日朝までの7日間の休戦を経て、ネタニヤフ政権は改めて、ハマス
2022年12月、ガザでのハマス創設35周年記念集会に登場したヤヒヤ・シンワル氏(中央)。この時すでに、今回のイスラエル奇襲を計画していた (C)Anas-Mohammed / Shutterstock.com ハマスによるイスラエル奇襲を残されたインテリジェンスから読み解くと、1年以上前から周到に計画され、「穏健化」の皮をかぶってイスラエルを欺いたことが見えてくる。そしてイスラエルの過剰な報復による人道危機をも狙っていたのかもしれない。 戦場はインテリジェンスの宝庫だ。奇襲を受けたイスラエルでは、パレスチナ武装勢力「ハマス」の戦闘員が戦死して遺した書類や地図、食糧、武器などを分析し、ハマス側の戦闘計画や戦略目標などが判明したというのだ。 ロシア軍のウクライナ侵攻では、米国と英国は遺された兵器を分解して、部品の生産国を突き止め、輸出管理の強化に努めた。太平洋戦争では、米軍が南太平洋の島々で
バイデン政権屈指のロシア通といわれるオースティン国防長官(右)とゼレンスキー大統領(左)の会談は事前の予告なく行われた[11月20日、ウクライナ・キーウ/UKRAINIAN PRESIDENTIAL PRESS SERVICE](C)AFP=時事 「支援疲れ」に中東情勢の緊迫も加わり、ロシア・ウクライナ戦争をめぐる欧米メディアの報道に潮目の変化が起きている。ウクライナ軍の反転攻勢の失敗や兵員不足に多くが言及、バイデン政権の対応にも批判が集まる。現状でロシア側が占領地域を手放すことは考えにくい。このまま停戦交渉に向かった場合、ウクライナが領土割譲という苦渋の選択を強いられるとの見方が台頭している。 ロシア軍の全面侵攻から1年9カ月を経たロシア・ウクライナ戦争は、ここへ来て潮目が変わりつつある。 ウクライナ軍の反転攻勢は成果を得られず、政権内の亀裂が伝えられる一方で、ロシアは長期戦に持ち込み、
難民申請を事実上2回までに制限する改正出入国管理・難民認定法が成立し、川口市ではクルド人を念頭に置いた「一部外国人による犯罪の取り締まり強化を求める意見書」が採択された。半年後に再度取材を試みると、インタビュー時は日本社会のルールを守る重要性を語っていたクルド人の男性は、「強制送還するならやってみろ」と激高した。 インタビューを続ける中でA氏は、物騒な発言をした。 「入管の人間を3回殴ったことがある。血だらけにしたこともあるし、捕まったことはないが。今はいいんだけれど、僕らを人間として見ていなかった。娘が5歳の時に、『この人本当にあんたのパパなの』と5歳の子に聞いた。外にいる日本人と入管の日本人は同じ日本人かと思う位だ。(入管職員が)お父さんの耳を引っ張ったんだよ。俺、入管職員ぼこぼこにした」 こうした発言に対しては、「入管職員も法律を守らせねばなりませんよ」とややたしなめるように言うと、
埼玉県南部には数多くのクルド人が暮らし、その多くが建設現場での解体工事などに従事している。難民申請を出し続けることで送還を忌避しつつ、結婚して9年になる日系ブラジル人の妻名義で購入した土地で会社を経営しているというクルド人男性へのインタビューでは、日本に住む理由として「子供の教育」「就労の機会」「治安の良さ」を挙げるなど、「難民」の枠では括れない現実が浮かび上がる。 埼玉県南部の川口市および蕨市にはクルド系トルコ人(以下クルド人)数千人が居住すると見られている。これらの人々は、「トルコで迫害にあって逃れてきて、日本の出入国在留管理庁(入管)から冷酷な処遇を受けながらも、帰るに帰れないでいるかわいそうな人々」といったイメージが一般的ではないか。ただ、現地で取材をすると実態はかなり違う。 ここでは、川口市で解体業を事実上営むクルド人A氏のインタビューを紹介したい。在日クルド人の発想がよく理解で
『国際政治』(1966年刊)、『世界地図の中で考える』(1968年刊)など、国際政治学者・高坂正堯(1934~1996年)の本は、刊行から半世紀が過ぎても、いまだに版を重ね、読まれ続けている本が多い。 そして、高坂が逝去してから27年となる今年、新たな講演録『歴史としての二十世紀』(新潮選書)が刊行され、話題を集めている。 国際情勢は目まぐるしく変化を続けているにもかかわらず、なぜ高坂の本は読まれ続けるのか――国際政治と安全保障を研究している田所昌幸(国際大学特任教授)、細谷雄一(慶應義塾大学教授)、小泉悠(東京大学専任講師)の3氏が鼎談した。 * * * 古さを感じさせない秘訣 細谷 慶應義塾大学の細谷ゼミでは、毎年、国際政治に関する本をたくさん読みます。それで学年の最後に「面白かった本」のアンケートを取ると、必ず高坂先生の『国際政治』が1位になる。正確に言えば、私が書いた『国際秩序
国連の独立専門家は「戦争犯罪」という言葉を使い、ハマスとイスラエル双方を批判している[ハマスの襲撃によりイスラエルで死亡したタイ人労働者らの棺=2023年10月26日=タイ・バンコク郊外の空港](C)時事 パレスチナの国家性を認めるか、ハマスはパレスチナを代表する組織なのか、あるいはガザ地区は「被占領地」なのか。これらをどう認識するかによって、今回の紛争に適応される国際法も厳密には異なる。国際政治における各プレーヤーが「戦争犯罪」という言葉を使う時、そのプレーヤーの法的解釈も問われることになる。ただし、戦争犯罪であれ他の罪であれ、犯罪の責任はいつか必ず問われねばならない。それを裁く法廷において、並立する世界線は最終的に統一されるはずだ。 本紛争において「武力紛争」が存在するか。これは、前編で書いた各プレーヤーの法的前提に依存する。そもそもまず、イスラエルや欧米等は、いずれも相手を正式には「
1989年11月に「ベルリンの壁」が崩壊し、世界中の人々が「これで世界は平和になる」と寿いだ。しかし、国際政治学者の高坂正堯(1934~1996年)は、その直後に「歴史としての二十世紀」と題する連続講演を行い、戦争の再来について警鐘を鳴らした。 高坂はなぜ戦争の再来を「予言」できたのか――その連続講演を書籍化した『歴史としての二十世紀』(新潮選書)刊行を機に、国際政治と安全保障を研究している田所昌幸(国際大学特任教授)、細谷雄一(慶應義塾大学教授)、小泉悠(東京大学専任講師)の3氏が鼎談した。 * * * 「少数派」だった高坂先生 細谷 『歴史としての二十世紀』が刊行されるにあたり、私は「はじめに」と「解題」を執筆させていただきました。もっとも、私自身は高坂先生と交流があったわけではありません。生(なま)でお見かけしたのも、高坂先生が1996年に亡くなる前年、慶應義塾大学の秋の三田祭に
縮み続ける日本経済が転換するには企業のリスクテイクが不可欠[国内投資拡大のための官民連携フォーラムに出席する(左から)経済同友会の新浪剛史代表幹事、新経済連盟の三木谷浩史代表理事、全国銀行協会の加藤勝彦会長=2023年10月4日、首相官邸] 2018年の楽天モバイル設立、20年の携帯サービス本格参入から現在に至るまで、楽天グループは「無謀な携帯参入さえなければ優良企業」との評価に晒されてきた。基地局建設には膨大な設備投資が必要であり、契約件数の伸びに比して急ピッチで膨らみ続ける有利子負債は確かに懸念すべき問題だが、それでも楽天グループとその代表取締役会長兼社長・三木谷浩史氏は日本が負のスパイラルから抜け出すために不可欠なロールモデルだと、『最後の海賊 楽天・三木谷浩史はなぜ嫌われるのか』(小学館)を上梓した大西康之氏は強調する。なぜか。4年以上にわたる取材をもとに、その挑戦する力の源泉に迫
どのような行為が「戦争犯罪」と呼ばれるかは、国際政治における各プレーヤーの法的解釈によって異なる[イスラエル軍の空爆で破壊された瓦礫の中から負傷した少女を救出したパレスチナ人男性=2023年10月25日、ガザ市](C)EPA=時事 ハマスの襲撃と、それを受けたイスラエル軍のガザ地区への空爆によって、すでに多数の民間人死傷者が出ている。国際政治の場では、こうした行為を非難する際に「戦争犯罪」というワードが使われることがあるが、国際法上の「戦争犯罪」が成立するには様々な条件がある。紛争の当事者が互いを国家として承認していない場合、拠って立つ法的な前提がそもそも異なることとなり、ある種のパラレルワールドが生じる。 裁判になれば、各プレーヤー(=当事者。本記事では直観的なわかりやすさのため、プレーヤーと呼ぶ)が法的主張を行う。そのため、法廷ではプレーヤーの数だけ法的パラレルワールド(複数の法的な世
ウクライナにおける戦下の日常を「虫の目」からつぶさに描くことで、侵略行為を別の側面から浮き彫りにする(Marko Subotin / Shutterstock) ロシア・ウクライナ戦争の開戦から間もなく、『ウクライナ・ダイアリー 不屈の民の記録』の著者・古川英治氏は、ウクライナ人の妻やその家族とともにキーウに留まる決意をした。ジャーナリストとして、そして戦争当事者として戦下の日常を描いた本書は、国際政治の舞台で忘れられがちな「虫の目」から侵略の輪郭に迫って行く。 迷いながらも取材を進める著者を友人として見つめてきた経済コラムニスト・YouTuberの高井宏章氏が、『ウクライナ・ダイアリー』から浮かび上がる、「ネーション」として目覚めて行くウクライナの人々の姿を伝える。 *** ロシアがウクライナに侵攻してから、2回目の冬が近づいている。膠着気味とはいえ、ウクライナは頑強な抵抗を続けている。
外食全体は伸びているが高級店では節約ムード[重慶市の観光地・洪崖洞。併設されている飲食店にも黒山の人だかり=2023年9月] 写真:筆者撮影 中国経済が「今にも崩壊」と叫ぶ議論は誤りだ。今年1~9月の外食売上はコロナ前の2019年比で13.9%も伸びている。ただし、悲観論が間違いとも言えないはずだ。何より中国人の間に悲観ムードが漂っている。レストランは混雑しても高額商品が売れなくなり、史上最高の売上だという自動車も、実は輸出に大きく底上げされている。一部は非常に悪いが、良い部分もそこそこある――このまだら模様が日本の「失われた30年」に変貌するかは、不動産市場と消費マインドの行方がカギを握る。 中国経済に対するネガティブなニュースが多い。 雇用では今年6月に若年層(16~24歳)の失業率が21.3%と過去最悪を更新し、7月以降は統計が発表されなくなった。2021年から続く不動産不況は今なお
3年半で5回目となる総選挙を制し、ネタニヤフ氏が首相に返り咲く見通しとなった。議会の過半数を獲得するうえで手を組んだのが極右政治家のベングヴィール氏だが、彼の存在は新政権の外交に暗い影を落とす。 11月1日のイスラエル総選挙(定数120)で、ベンヤミン・ネタニヤフ元首相率いる右派陣営が64議席を獲得し、中道、左派が中心のヤイル・ラピド連立政権に勝利した。ネタニヤフ氏は1年ぶりに首相に復帰する見通しだ。 「市民が今までと違う国を求めていることは明らかだ。安全保障、そして物価の安定だ。(政府に)弱さではなく、力強さを求めたのだ」 ネタニヤフ氏は2日、支持者との集会で満面の笑みを浮かべ、こう述べた。
イランのアミール・アブドラヒアン外相はイスラエルと米国に対し、「ガザへの攻撃を止めなければ混乱がもたらされる」と警告した[10月22日、テヘラン](C)EPA=時事 10月18日にイランが発した対イスラエル石油禁輸の呼びかけに対し、イスラム諸国の同調は今のところ見られない。だが、この武力衝突が石油供給に与える影響を考えるなら、やはり最大の焦点はイランだろう。ハマス奇襲にイランの関与を疑う声が高まれば、共にその蓋然性は低いが、第1に「米国が対イラン制裁を強化」、第2に「イスラエルが対イランで報復措置を実施」の2つの可能性が浮上する。現在、イランが国際石油市場に供給する約140万B/Dが低下するリスクのみならず、イスラエルがイラン石油関連施設を攻撃すれば地政学リスクも一気に高まる。 ハマスによる大規模奇襲攻撃に始まった今回のイスラエル・ハマス間の激しい武力衝突は中東情勢に激震をもたらした。奇襲
メルケル前首相が15年前にイスラエル議会で語った「国是(Staatsräson)」をショルツ首相も強調した[イスラエルへの支持と連帯を示すデモに参加する人々=2023年10月14日、ドイツ・フランクフルト](C)AFP=時事 ハマスによるイスラエルに対する大規模な攻撃は、ドイツ人たちにも強い衝撃を与えた。ショルツ政権はイスラエルを全面的に支持する姿勢を、米国と肩を並べる形で打ち出した。その背景には、ナチスによるユダヤ人虐殺を決して相対化せず、国家として永久に責任を認めるという「国是」がある。 ドイツのオラフ・ショルツ首相は10月8日、「我々はイスラエル側に立つ。私はベンヤミン・ネタニヤフ首相と電話で会談し、強固な連帯と支援を約束した」という声明を発表した。ショルツ首相は「ハマスのテロリストたちは、イスラエル人の家に押し入り、子どもも含めて市民を無差別に殺害し、ガザ地区に連行して人質にした。
中国バイドゥは米カリフォルニア州でも傘下企業が無人走行の許可を得ている[バイドゥの無人タクシーの車内に設置されたタッチパネル。「開始行程」を押すと出発する=2022年9月5日、中国湖北省武漢市](C)時事 世界でEV(電気自動車)が本格的な普及段階に入った。これに牽引される形で拡大するのが、2029年には車両だけで200億ドル規模に拡大すると見られる自動運転技術市場だ。コンピューティングと電力供給がカギになる未来はガソリン車では描けない。そして市場の裾野の広さも考えれば、EVシフトへの腰が重い日本は基幹産業衰退の危険を冒している。 米Clean Technica社の報告によると、今年6月に世界のプラグイン車両(BEV=バッテリー電気自動車、PHEV=プラグインハイブリッド車を合わせたもの)の比率が全販売台数の19%に到達した。BEVのみの割合でも13%だ。 これは昨年比で38%の上昇となり
池内恵(いけうちさとし) 東京大学先端科学技術研究センター グローバルセキュリティ・宗教分野教授。1973年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程単位取得退学。日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員、国際日本文化研究センター准教授を経て、2008年10月より東京大学先端科学技術研究センター准教授、2018年10月より現職。著書に『現代アラブの社会思想』(講談社現代新書、2002年大佛次郎論壇賞)、『イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社、2009年サントリー学芸賞)、『イスラーム国の衝撃』(文春新書)、『【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』 (新潮選書)、 本誌連載をまとめた『中東 危機の震源を読む』(同)などがある。個人ブログ「中東・イスラーム学の風姿花伝」(http://ikeuchisatoshi.com/)。
埼玉県南部の川口市と蕨市でクルド人のトラブルが相次いでいる。20年以上前にコミュニティが形作られた現地を歩く中で浮かび上がるのは、クルド人親族グループ同士の対立、教育格差、日本に馴染めず不満を募らせる2世といった問題の根深さだ。 複数の親族グループに分かれて、断絶するコミュニティ 7月4日、川口市内の病院にクルド人100人ほどが集まり、騒乱を起こしたことが大きなニュースになった。対立するグループ同士で乱闘になったのだ。それからは改造車での暴走、クルド人が働く解体現場での危険な作業などが次々に報じられた。 どうしてクルド人は荒れているのか……。現地を歩き、さまざまなクルド人、日本人に話を聞いていると、トラブルの背景にはさまざまな理由があることがわかった。 そのひとつが「クルド人内部での分断」だ。クルド人と長年のつきあいがあるという地域の日本人Aさんはこう話す。 「日本には2000人とも400
「戦争研究所(ISW)」は、ロシア・ウクライナ戦争の戦況を日々レポートしているが(「ISW」HPより) ウクライナの戦況分析で欧米のクオリティペーパーが頼みにする「戦争研究所(ISW)」は、かつて論客として名を馳せたロバート・ケーガンの一族を筆頭にネオコン人脈が設立と経営に深くかかわっている。ISWの若い研究者たちにとってはイラク戦争時の「情報のクッキング」など歴史上の出来事かもしれないが、ベテランの軍事アナリストらの間ではISWは「ウクライナ軍のパフォーマンスに過度に楽観的だ」との批判もある。メディアは過去の教訓を忘れるべきではないだろう。 古今東西を問わず戦争報道は困難を伴い、往々にして真実が犠牲になる。20年前、ジョージ・ブッシュ(子)米政権はインテリジェンスをねじ曲げて、イラク戦争へと扇動した。 当時ブッシュ大統領は自ら、開戦の約半年前に「イラクが生物・化学兵器をテロ組織に渡す恐れ
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