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アメリカ大統領選
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※本記事中に性暴力に関する記述があります。 2024年10月24日、注目していた裁判の一審判決が言い渡された。判決までに要した時間は4年――。その間の1日、1日が、被害者にとってどれほどの苦痛を強いられるものだったか。 被告は「社会福祉法人グロー」(滋賀県)元理事長、および「社会福祉法人愛成会」(東京都)元理事の北岡賢剛氏だ。氏による長期間、幾度にも渡る性暴力、ハラスメント被害をうけた原告2名は、北岡氏と「社会福祉法人グロー」(以下、グロー)に対し、法的責任と損害賠償を求めて提訴した。 結果として東京地裁(野口宣大裁判長)は、北岡氏に220万円、「グロー」に440万円の支払いを命じる判決を言い渡した。 裁判の過程で繰り返される二次加害や、人権感覚をアップデートできない権力者とその周囲の「黙認」による構造的暴力、法制度の不備や消滅時効の捉え方など、この裁判が社会に問いかけるものは多岐にわたる
10月27日(水)衆院選の投開票日、JRN報道特別番組「総選挙2024 <ザ・ジャッジ>有権者の審判は」に出演した。 この社会には、投票という形で自身の意思を表明することができない人たちも、共に生きている。だからこそ選挙の度、マイノリティの人々が強いられてきた人権の問題を、「多数決」で決めてしまうことの暴力性についても考える。 選挙特番は他局との兼ね合いもあり、時間が厳密に決められている。限られた時間内ではあるが、質問できたこと、できなかったことをまとめた。 ※差別の深刻さを伝えるため、ヘイトスピーチにあたるような文言が掲載されています。 《番組中の質問》 ①自民党 森山裕 幹事長(質問:選択的夫婦別姓) 一般社団法人NO YOUTH NO JAPAN代表理事の能條桃子さんが先に選択的夫婦別姓について尋ねてくれた。それに対しての返答は、「党内でも色んな議論があり、国民世論でも色んな考えがあ
パレスチナで続く凄惨な殺戮や占領に対して、ヒップホップの音楽やラップで抵抗と連帯の声をあげる人々がいます。ドイツ・ベルリンに拠点を置く音楽ライター・翻訳家の浅沼優子さんに、パレスチナ・ヒップホップ3曲を選んでいただき、D4Pがおすすめする曲とともにご紹介します。 1990年代からアラブ圏に浸透したヒップホップ。今回ご紹介したリスト以外の曲にもぜひ耳を傾けてみてください。 浅沼優子(あさぬま ゆうこ)さんプロフィール フリーランスの音楽ライター、翻訳家、字幕制作者、通訳。2009年よりベルリンに拠点を移し、それをきっかけにDJやアーティストのブッキング業務に携わるようになる。2020年にブッキング・エージェンシー「setten」を立ち上げ、現在は音楽イベントのプロモーションやキュレーションも行っている。訳書に『アンジェラ・デイヴィスの教え: 自由とはたゆみなき闘い』(河出書房新社)がある。
昨年10月以降のイスラエルによるガザ侵攻に対して、アメリカのバイデン政権はガザへの人道支援を行い、停戦を求める姿勢を見せつつも、一貫してイスラエルの「自衛」を支持してきました。そうしたダブルスタンダードに、若者を中心にバイデン政権や民主党に対する抗議の声も上がっています。 次期アメリカ大統領候補であるトランプ氏とハリス氏の選挙戦では、イスラエルに関する姿勢もひとつの争点となっています。 世界の超大国アメリカは、民族浄化を推し進めるイスラエルをなぜ支持し続けるのか?国際政治学者の三牧聖子さんと考えました。 三牧聖子さん(本人提供) 討論会で明らかになった、トランプ氏とハリス氏の共通点 ――9月11日に行われたトランプ・ハリス両氏のテレビ討論会、どのようにご覧になりましたか? ハリス氏がトランプ氏を追い詰める局面が目立ち、互いが互いの政策を批判し合いましたが、ガザに関しては、あれほど対照的な二
本記事はライターの小川たまかさんによる寄稿記事です。 今年4月、私は沖縄で長く女性運動を続けてきた高里鈴代さんたちに話を聞くために那覇へ飛んだ。1995年の事件や、それ以前から続いてきた沖縄での性暴力と、声を上げた女性たちの話を聞くためだった。 このとき、またすぐに沖縄を訪れたいと思ったが、このわずか2ヵ月後に米兵による性犯罪が発覚し、しかもこの事実を外務省や沖縄県警が沖縄県に伝えていなかったとして大きく報道されることになるとはまさか思わなかった。 事件が初めて報道されたのは、6月25日。 沖縄県議会選挙(6月16日)と沖縄慰霊の日(6月23日)への影響を懸念した外務省が情報を伏せたのではないかという憶測も飛んだが、上川陽子外相は「被害者のプライバシー保護」が理由だとした県警を踏まえて防衛省に情報提供しなかったと説明した。 那覇地裁で行われた7月の初公判、8月後半に行われた少女とその母への
9月末になっても、岩手にしては珍しく、全身にまとわりつくような湿気が大地を覆い、山道を歩めばすぐに額に汗が噴き出す気候が続いていた。人間の背丈ほどもある雑草を分け入って、そろりそろりと山肌の急斜面を下っていくと、うっそうと茂る草木の合間からトンネルの入り口がのぞく。辺りは日中とは思えないほど薄暗い。飯森トンネルーー岩手と宮城の県境にまたがり、旧国鉄の大船渡線敷設工事の中でも、岩盤や水脈に阻まれ、最も難所と言われた場所だ。 このトンネルがある陸前高田市矢作町出身の伊藤郁夫さん(75)がぽつりと語った。 「過酷な現場となったこのあたりのトンネルでは、朝鮮人を“人柱”にしていたとも言いますね。あの頃の朝鮮の人たちは“人扱い”ではなかったと聞いています」 この“人柱”の話は、伊藤さんに限らず、度々この地域で語られることだ。 大船渡線敷設工事中に起きた「矢作事件」 1923年、関東大震災の発災後、「
※本文中に性暴力に関する描写があります。ご注意ください。 バリ島を経由し、小型の旅客機に乗り換えると、眼下にはいくつかの島々からなる小スンダ列島が見えてくる。それらはインドネシアに属するが、その東端、ティモール島は、東半分と飛び地のオエクシが、2002年に東ティモール共和国として独立している。今世紀初の独立国家だ。 面積は岩手県程度で、人口は130万人余り。非常に小さな国家だが、地域ごとに多様な言語が話され、色鮮やかな布(タイス)や、唐辛子やにんにく、ライムなどでつくる独特の調味料(アイマナス)のバリエーションの多さには目を見張るものがある。バリ島からすぐ、ということもあり、沿岸部の景色はまさに「南の島」そのもので、観光化が進んでいないぶん、少し街から離れた天然のビーチから覗く海は透き通るようだ。 東ティモールの首都、ディリ。約30万人が暮らす。(佐藤慧撮影) この数年でだいぶ車が増えたと
カタコトと軽快なリズムを奏でながら、呉線は海沿いをゆっくりと駆ける。その車窓から見える、瀬戸内海の穏やかな水面に浮かぶ島々の一つが、大久野島だ。 忠海港からのぞんだ大久野島。(安田菜津紀撮影) 今はその姿をゆっくりと眺めることができるが、かつては列車内の海側の窓は、全て遮蔽されていた。大久野島は、「地図から消された島」として、そこで行われていることのすべてが「機密」とされた。日本軍の工場では、毒ガスの製造が進められていたのだ。 岡田黎子さんの画集『大久野島・動員学徒』より。(安田菜津紀撮影) 大久野島は忠海港からフェリーで15分ほどの場所にある。ぐるりと一周しても4キロほどの小さな無人島だ。宿泊施設はあるものの、そこに「居住」している人はいない。 島には今も、ヒ素が入った筒が地中に埋められている場所もある。飲み水にもヒ素汚染の恐れがあり、ちょうど私たちが島に着いたとき、三原市から飲料水を運
「このような悲劇が二度と繰り返されることがないよう祈ります」 2021年8月6日、広島市で行われた平和式典に駐日イスラエル大使が参加し、イスラエル大使館の公式Twitter(現X)は、このようなメッセージを投稿した。その前年も、さらに前の年にも、ほぼ同様の文言が発信されている。 そして今、イスラエルは、ガザでの凄惨な虐殺を続けている。 イスラエル駐日代表は2009年から広島市の平和式典に参加し、今年も出席の意向だ。ネット上ではXを中心に、招待を取り消すよう「ランチタイム・ツイデモ」が連日行われている。他方、パレスチナ暫定自治政府の駐日代表部には、今年も招待状が送られていない。 長崎市は、8月9日に行われる平和祈念式典について、イスラエル駐日大使への招待状送付を「保留」としている。一方、これまでと同様、パレスチナ代表部には招待状を送るとした。 広島市の対応はなぜ問題か。中東地域研究を専門とす
本記事は西南学院大学法学部教授の根岸陽太さんによる寄稿記事です。 「国際法とは、現在のガザのパレスチナ人の子どもたちにとって何の意味があるのでしょうか。……裁判官の皆様、パレスチナ国は裁判所に訴えます。国際法を守り、不正義をなくし、公正で恒久的な平和を実現するために、国際社会を導いてください。」 パレスチナ国連常駐代表マンスール氏 2024年7月19日、オランダ・ハーグの平和宮を拠点とする国際司法裁判所(ICJ)が、パレスチナ被占領地域におけるイスラエルの継続的駐留を国際法違反とする勧告的意見を発しました。国際司法裁判所は、国際連合の主要機関の一つで、国家間紛争に対して当事国を拘束する「判決」を下すことが主たる任務です。ただ今回は、国連総会から諮問された問題について、国際法に照らした「勧告的意見」を出すという役割を担いました。 度重なるイスラエル軍の侵攻にさらされる西岸地区ジェニンの壁に描
神奈川県相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で19人を殺害し、殺人などの罪に問われた植松聖被告(30)の裁判員裁判が1月8日に始まりました。公判は16回、既に結審し、判決は3月16日に言い渡される予定です。植松聖被告が繰り返す「障害者なんていなくなればいい」という発言は、日本社会に様々な波紋を広げてきました。被害者のほとんどが匿名で審議されていることを含め、この事件が社会に投げかけたものは何か。脳性まひの障害を持ち、障害者と社会のかかわりについて研究を重ねてきた、東京大学先端科学技術センター准教授、熊谷晋一郎さんと考えます。 他者が発信しているメッセージを、どのくらい拾ってきたか 安田:まずこの事件を最初に報道で知った時、熊谷さん自身はどう受け止めたのでしょうか? 熊谷:報道で知った直後は、自分の感情を自覚できなかったのですが、そのあと数日間、体調不良が続いていました。身体が重いよ
2020年6月、東京では都知事選が目前に迫っていた。といっても、駅前の街頭演説に人だかりを作れるような状況ではない。テレビ討論会も開かれず、かろうじて報じられることといえば、各候補のコロナ対策が主だった。 そんな中、投開票日直前のネット番組に出演した現職の小池百合子氏は、「追悼文」の問題について司会者から問われた。毎年9月、関東大震災で虐殺された朝鮮人犠牲者を追悼する式典が墨田区横網町公園で開かれている。それに際し、歴代の知事は追悼文を寄せてきた。マイノリティへの差別発言を繰り返してきた、あの石原慎太郎知事でさえ、だ。 ところが小池知事は、2017年からその送付を取りやめている。加えて式典のために必要な横網町公園の使用許可申請の受理を、都は三度にわたって拒否していた。 これを問われた小池氏は、「大きな災害で犠牲になられた方、それに続いて〝様々な事情〟で犠牲になられた方、これらすべての方々に
2023年6月、人道上の問題が指摘されながらも、出入国管理及び難民認定法(入管法)の改定案が可決されました。さらに今国会で審議中の法案には「永住権の取消」が盛り込まれ、様々な形で日本に滞在する人々から不安の声があがっています。 6月から施行される「監理措置制度」や3回目の難民申請中の強制送還、そして司法の介在なく無期限収容が可能となってしまう体制は放置されたままである点など、入管法を取り巻く問題は山積みです。 本来あるべき法制度は何か、先日、控訴審判決が出た、カメルーン人男性の収容中死亡事件や、ウィシュマ・サンダマリさん死亡事件などで弁護団を務める、弁護士の高橋済さんと一緒に考えていきます。 高橋済さん(本人提供) 公園の川を越えられない?仮放免の子どもたち ――高橋さんには新刊書籍『それはわたしが外国人だから?―日本の入管で起こっていること』(著 安田菜津紀 絵・文 金井真紀)で法監修を
事件を改めて振り返る。訴状や代理人弁護士らによると、2021年6月、都内に住む南アジア出身のムスリム女性、Aさんが近所の公園で3歳の長女を遊ばせていたところ、突然園内にいた男性B氏が大声を出して長女に近づき突き飛ばしたうえ、「(Aさんの長女に)息子が蹴られた」などと抗議してきたという。 Aさんは「長女は蹴っていない」と一貫して主張したものの、B氏から「ガイジン」「在留カード出せ」などと詰め寄られた。たまたま通りかかって英語で通訳をした別の男性Cさんによると、B氏は遠くからも分かるほどの大声で、Aさんたちに対し「ガイジン生きている価値がない」「ゴミ」「クズ」等、差別発言を繰り返し、「年収3000万円以下は人ではない」などの言動を続けていたという。 その後、B氏の通報で警察官が計6人、現場に駆けつけることになった。日本語でのコミュニケーションがほとんどできない長女に対し、警官は激しい口調で「本
在留期間や就労分野に制限のない「永住権」を持つ人々は、昨年6月末時点で約88万人いるとされています。ところが、税や社会保険料を納めない場合などに、永住許可を取り消せるようにする法案が、今国会に提出されました。 税や社会保険料の滞納が恣意的に「故意」とみなされ、永住権を奪われてしまうのではと、懸念の声があがっています。この問題について、弁護士の鈴木雅子さんと考えていきます。 鈴木雅子さん(本人提供) 突然浮上した「永住許可取消制度」 ――今国会に提出された入管法改定案に「永住許可取消制度」が盛り込まれたのは、突然のことだったのでしょうか? 技能実習制度の廃止についてはずっと議論がされてきており、それがいよいよ法案化することは、予想されていました。しかし、突然出てきたのが永住許可取消制度の導入です。技能実習制度の廃止と合わせて閣議決定されました。 永住許可の取消については、これまでまったく議論
「I’m dying!」(死にそうだ!) 「みず、みず!」 そう叫びながらのたうちまわるAさんの映像(※)を最初に目にした衝撃は忘れられない。これがまぎれもなく、国が管理する施設で起きたということにも――。 2014年3月、茨城県牛久市にある「東日本入国管理センター」の収容施設で、難民申請中だったカメルーン人男性Aさんが体調不良を訴えるも、7時間あまり放置され亡くなる事件が起きた。床の上で転げまわるほどの苦痛を訴えていたにも関わらず、入管職員は対処するどころか、監視カメラでその様子を観察し、動静日誌に「異常なし」と書き込んでいた。 この事件についての入管側の報告書では、亡くなる前夜に男性が「I’m dying!」と叫び続けていたことに一言も触れられていない。 (※)Aさんの映像:男性が苦しむ様子が映されています。 医師の診療を受けられない Aさんは2013年10月、成田空港に到着後、空港の
本記事は、ドイツ系パレスチナ人のジャーナリスト・映画監督のラシャド・アルヒンディ(RASHAD ALHINDI)氏による記事(2023年4月6日公開)を翻訳したものです。 原文(英語)はこちら。 (※)による注釈は翻訳者追記。 ラシャド・アルヒンディさん。(安田菜津紀撮影) ベルリン地方裁判所において、数人の活動家が「表現と集会の自由」に対する基本的権利を掲げ、「ナクバの日」(※)のデモの新たな禁止を阻止しようと訴えている。 (※)ナクバの日 毎年5月15日「ナクバの日」とは、1948年、イスラエルの建国に伴い約75万人のアラブ・パレスチナの人々が故郷を追われることになった出来事(ナクバ——アラビア語で「大災厄・大破局」を意味する)を嘆き、想起する日。 2022年4月末、ベルリン警察は「ナクバの日」を含め、パレスチナに関連するすべての集会を禁止した。またイスラエルによる、著名なパレスチナ人
「消費」を用いたアクション、「消費アクティビズム」は、国内外、様々な形で展開されてきました。不買運動「ボイコット」や、購買によってその売り手を後押しする「バイコット」など、アクションの形態も多岐に渡ります。 兼ねてからイスラエルによるアパルトヘイト政策に対し、BDS《ボイコット(Boycott)、投資撤収(Divestment)、制裁(Sanctions)》が呼びかけられ、とりわけ昨年10月以降、ガザでの虐殺が続く中、イスラエル関連企業や武器製造企業への投資から手を引くことを求める学生の抗議が米国の大学で広がりました。そして日本国内でも、暴力に加担する企業へのボイコットが広がりを見せています。 こうした消費アクティビズムの意義や難しさ、私たちに身近からできることなどを、文筆家の佐久間裕美子さんと考えました。 ――「消費アクティビズム」はなぜ広がっていったのでしょうか? 私がアメリカに拠点を
保護費を全額支給せず、ハンコの大量管理、窓口で暴言も 「生活保護費が窓口で1日1000円しか支給されない」「自分がハローワークに行ったことを役所の職員が確認すると支給される」――生活保護利用者のひとりからそんな相談を受けたとき、仲道さん自身も当初は信じられない思いだったと語った。1日1000円の支給ということは、本来支給されるべき額が、満額支給されていないことを意味する。ハローワークに毎日行ったところで、求人が1日で劇的に変わるはずもなく、これを強いていた理由が「嫌がらせ」以外に思い当たるだろうか。 しかし現実は、仲道さんが想像していた以上に杜撰極まりないものだった。満額支給されなかった生活保護費の未支給分は、「会計上は支払ったこと」にした上で、金庫に保管されていたことが分かっている。 信じがたい対応ではあるが、問題はこれに留まらなかった。仲道さんが関わった中だけでも、窓口に来た利用者や家
そうした加害の歴史との向き合い方は、国や地域によって様々だ。「解放のための戦争だった」「従軍慰安婦など存在しない」「虐殺はなかった」――。そのような言説が、ネット上の一部に留まらず世に溢れ出てくる日本社会は、果たして「繰り返さない責任」を問えているだろうか。 「日本と比べて、“加害の歴史としっかり向き合ってきた”というイメージの強いドイツでも、実はタブーとして触れられなかった結果、ほとんど忘れられてしまった領域があります。例えば、収容所内での強制性労働に関する研究については、証言者の少なさも相まって、社会的認知は低いままです」 そう話すのは、「ザクセンハウゼン追悼博物館」でガイドを務める中村美耶さんだ。ドイツの大学で歴史学を専攻し、自身の研究分野を探している中で、収容所内の強制性労働の実態を知ることになったという。今回の記事では、中村さんにザクセンハウゼンを案内頂いた上で、「加害を見つめる
ホロコーストという加害の歴史を背負うドイツは、イスラエル支持を強く打ち出してきました。ドイツ国内では、停戦を求めるデモ参加者が「反ユダヤ主義」と見なされ、逮捕・連行されることが相次いでいます。なぜドイツはイスラエルを擁護し続けるのでしょうか。国際政治史、ドイツ政治外交史が専門の東京大学法学部教授、板橋拓己さんと「ドイツとイスラエル」について考えました。 「過去の克服」の出発点 ――ドイツはナチ・ドイツ政権下でのホロコーストの加害者としての歴史を背負い、イスラエルは「ホロコースト犠牲者の国」であるということを打ち出してきました。両国は戦後、どのように関係を構築していったのでしょうか。 ドイツ側から見れば、贖罪意識と国際社会への信用回復が重要であり、イスラエル側から見れば、自国の存続、つまり生まれたての国家をどのように守っていくかという中で、ドイツの支援が必要になったという関係から出発したと言
7年ぶりに再会した少女たちは、見違えるほど大きくなっていた。シリアからドイツに避難することになった知人一家を前回訪ねたのは、2017年のことだった。当時、幼い娘たちと妻はまだ、シリアを離れて数ヵ月という頃だった。 その後、子どもたちは学校で言葉の壁に突き当たり、知人もシリアで身に着けた専門性を活かせる仕事を見つけることはできなかった。異国の新生活で、度々困難に直面したという。それでも子どもたちはドイツ社会に少しずつなじみ、家族全員がすでにドイツ国籍を取得していた。 2015年、ドイツに難民としてたどり着いたのは約90万人だが、彼の家族のように、順当に日常を取り戻す人々ばかりではないだろう。それでも、命の危険から逃れようとする人々を包摂しようとするドイツ政府の姿勢は、同年にたった27人しか難民認定をしなかった日本政府のそれとは天と地ほどの差だった。 難民の受け入れだけではない。ホロコーストと
2023年11月28日、早稲田大学構内で「イスラエル情勢の現状~日イ・ビジネスのインプリケーション」という催しが開催された。当該イベントは早稲田大学総合研究機構イノベーション・ファイナンス国際研究所が主催し、ミリオン・ステップス株式会社、そして駐日イスラエル大使館経済部が共催として名を連ねていた。サイトを見ると、イスラエルのビジネスやスタートアップをテーマにした内容となっている。 サイト上では事前申込「必須」とは書かれておらず、早稲田大学の学生であるAさんと、友人Bさんは当日受付での参加を試みた。2人はともに外国にルーツを持つ日本育ちのムスリム(イスラム教徒)学生で、イベント内容に興味を持っていた。 Aさんより少し早く受付に行ったBさんは、参加を認められたが、会場に入る際に荷物検査が実施された。一方、少し遅れて受付に行ったAさんは、「事前申し込みをしていない別の友人(Bさん)も参加が認めら
世界各地で繰り返される戦争、2024年元旦に能登半島を襲った地震、2011年の福島第一原子力発電所の事故、そして貧困の拡大など、社会課題は山積しています。ところが、そうした社会課題に声をあげる人を冷笑したり、何か困りごとを訴える人に「自己責任」論を突きつけるような言葉が後を絶ちません。この社会には今、どんな「言葉」が足りていないのでしょうか。作家で、子どもの本の専門店「クレヨンハウス」主宰の落合恵子さんと、「社会をケアする言葉」について考えました。 命、人権に向かって歩く ――クレヨンハウスでは戦争、原発、人権に関わるさまざまなイベントを開いていらっしゃいます。パレスチナやウクライナ、ミャンマーなど、戦争が収まらない現状をどう見つめていらっしゃいますか。 心の半分ではまだ終わっていないという無念さと、力足らずである自分自身も含めて今を生きている全ての大人への無念さがいつもあります。ただし、
本記事は裁判詳細をお伝えするため一部に差別文言を掲載しております。ご注意ください。 Dialogue for People副代表/フォトジャーナリストの安田菜津紀へのインターネット上での差別書き込みについて、2021年12月8日に提訴、その後の控訴審の判決が、2024年2月21日に言い渡されました。結果としては、その投稿は「差別的な表現を用いた侮辱」であるという一審判決を維持、という形にて判決が下されました。被告はついに最後まで法廷に姿を表しませんでした。本記事ではこの訴訟・判決の意義や課題についてご紹介します。 本件のあらまし 2020年、Dialogue for Peopleの公式サイトに、安田の執筆した記事『もうひとつの「遺書」、外国人登録原票』を掲載したところ、それに関連してTwitter上で差別コメントが投稿されました。この記事は、朝鮮半島にルーツを持ち、元は韓国籍、後に日本国籍
パレスチナ・ヨルダン川西岸地区南部に位置する街、ヘブロンで、私はジャーナリストたちが集うシェアオフィスを訪れていた。この地でジャーナリストを続けるということは、死と隣り合わせの日々を送るということだ。そんな彼らの心中を知りたかった。 若手ながら、危険地での取材を重ねているルアイ・サイードさん(26)は、何度もその耳元を銃弾がかすめていったという。取材が終わるたびに「今日も生きて帰ってこれた」と、ベッドに沈み込む。 「70年間、日本も含め、国際社会はなぜここで起きていることに沈黙してきたのか、私には理解できません。何が正しいか、何が間違っているか、こんなにも明らかなのに」 ルアイさんは、私たちの目を真っ直ぐに見据えながら、こう語った。 襲撃は日常茶飯事 「いつ自分が、殺害されたり土地を追われたり、捕まったりする人たちのうちのひとりになるか分かりません。“彼ら”がなぜそのような理不尽な暴力を振
加えて、他のアジア各国と同様にフィリピンでも日本軍による性加害が起きた。フィリピン各地に作られた「慰安所」には、朝鮮人や中国人、そして現地のフィリピン人などが「慰安婦」として連れてこられた。「慰安所」以外の場所でも、日本兵による強かんが横行していた。 中でも規模が大きく、組織的に行われたと考えられているのが「ベイビューホテル事件」である。 数百人の女性をホテルに監禁 1945年2月9日から12日または13日までの4、5日間、同ホテルや近くのアパートで、周辺に住む女性数百人が監禁され、日本兵から繰り返し強かんされた。アメリカ軍の捜査によると、中には10代前半の子どもも含まれる。フィリピン人のほか、イタリア人、ロシア人、アメリカ人、イギリス人なども被害を受けたという。 マニラ市街戦開始(1945年2月3日)から6日後の9日午後、エルミタ地区で火災が発生。住民の多くが、日本軍によって、ベイビュー
日本も共同議長国を務めた「グローバル難民フォーラム」は、難民として故郷を追われた人々の直面する問題や、各国の受け入れ状況などについて話し合う世界最大規模の会合です。先日12月15日、スイス、ジュネーブにて閉会しましたが、問題は山積しています。特に、世界各国と比較しても難民認定率が極端に低い日本は、むしろ難民の「排除」を推し進めているのではないかという懸念の声も、支援の現場からは継続的に発せられています。 今回の記事では、そうした日本の難民受け入れの現状や、出身国やルーツによって処遇に違いが出てくる構造的な問題、そしてタリバン復権によりアフガニスタンから日本に逃れてきた人々の置かれている状況、今後の制度改革の課題などについて、千葉大学社会科学研究院教授の小川玲子さんと考えていきます。 日本の難民受け入れの状況 ――今年は改定入管法が可決成立し、今月12月からは「補完的保護」という仕組みの運用
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