勤め先が倒産し、再就職先でトップに忠誠を尽くすもトップが失脚、転勤を余儀なくされる-。戦国末期から江戸初期を生きた、ある武士の実話だ。最初に仕えた主が滅び、新たに仕えた藩で藩主に重用されたが藩主が改易され、国替えになった後継者の元で再出発を図った。この武士の家に伝わる書簡や、この武士が自らの戦功を書き連ねた「履歴書」ともいえる文書をひもとくと、約400年前とは思えない、現代を生きるサラリーマンのような生きざまが浮かび上がった。(橋本昌宗) 主君が滅亡、敵方に… 主人公である武士の名は、桜井武兵衛(ぶへえ)。神奈川県立歴史博物館(横浜市中区)で公開されている文書や書簡から、その人生を追ってみたい。 桜井氏は、少なくとも武兵衛の父、桜井左近の代から、戦国時代の関東に覇を唱えた有力武将・北条氏に仕えていた。3代目当主、氏康の家臣「江戸衆」として小石川(現在の東京都文京区)を所領としていた-という