1004 KAGAKU Dec. 2023 Vol.93 No.12 人工知能 (AI) という分野が謙虚であったことなど一度もない。はるか昔の私が大学院生だった頃から, なんどかの「AI ハイプ・サイクル」 (訳者注 : 新しい技術に対する人々の期待値の変動) を個人的に経験しているが, その称するところ,どの回も前回の技術より画期的で,前回の失敗に対する不満や失望に覆われた「冬 の時代」を乗り越えて発展したという。私はといえば,ただこれらの盛衰を傍観していたのではなく, 初期の人工知能モデルに関する批判的議論を寄稿したこともある1 。とはいえ,今回のこの盛り上がり はある重要な一点においてこれまでとはかなり異なるかもしれない。最近の ChatGPT のような大規模 言語モデルは,何か楽しくてびっくりするようなことができるようだし,我々の日々の生活に技術的な 恩恵 (あるいは邪悪な何か)