本稿は2016年12月2日に朝日新聞のwebメディア「WEBRONZA」に掲載された(オリジナルはこちら)。 pdf 版はこちら 田崎晴明 今年のノーベル物理学賞は、デビッド・サウレス (David Thouless)、ジョン・コスタリッツ (John Kosterlitz)、ダンカン・ハルデーン (F. Duncan M. Haldane) に与えられる。受賞対象を一言でまとめれば「単純な要素が無数に集まったときに生まれる驚くべき現象」の研究と言える。少し説明が必要だろう。 水を冷やしていくとちょうど 0 度で氷になる。物質の性質が急激に変化する「相転移」の代表例であり、「単純な要素が無数に集まったときに生まれる驚くべき現象」の最もわかりやすい例だ。 どこが「驚くべき」なのだろう? 水は無数の水分子が集まったもので、一つ一つの水分子は周辺の分子たちと影響を及ぼし合いながら単純な法則に従っ