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「すべてのまちに本屋を」 本と読者の未来のために、奔走する日々を綴るエッセイ 今回は、出版物流通について考えていきたい。そして、現在の出版物流通が抱える課題が、「大きな出版業界」の衰退と「小さな出版界隈」の静かな広がりにどのような影響を与えているのかについて書いていきたい。 これまでの連載でも度々触れてきたが、書店数の減少をベースに、出版物売上の減少もあり、「出版不況」ということが叫ばれるようになっているのだが、これはどういうことなのかについて説明することからはじめようと思う。 これを理解するには、日本の出版物流通の知識がないと難しいかもしれない。それは日本の出版物流通が、定期的に(ほぼ毎日)発刊される雑誌流通をベースにした物流網に、書籍流通を載せることで成立してきたという点にある。 すなわち、出版物を運送する物流業者は、「定期的に、一定量ある雑誌」を運搬することで収益を得ていたのだが、雑
今回のサブタイトルにある“活劇小説”という言葉を提唱したのは、2023年に亡くなった書評家の北上次郎である。北上は1981年に書かれた「活劇小説宣言」という小文の中で、背景や小道具にこだわり形骸化してしまった冒険小説が袋小路から抜け出すには肉体の復権しかないと論じ、肉体の闘争を核とする新たな冒険小説を活劇小説と名付けた。それは単にアクション描写や暴力描写が書かれた作品を指すのではない。ちっぽけな個人が行く手を阻む大きな障壁をいかにして乗り越えるのか、というダイナミックな図式があるからこそ“新しい冒険小説”なのであり、主人公が対峙する“大きな障壁”に時代なりの創意工夫を行っている作品こそが優れた活劇小説になるのだ。では現代日本における優れた活劇小説の書き手は誰か。そう考えた時に思い浮かぶのが、今回インタビューを行った深町秋生だ。深町は活劇作家として独自の路線を突き進んでいる、と断言していい存
「すべてのまちに本屋を」 本と読者の未来のために、奔走する日々を綴るエッセイ 先日、図書館問題研究会(略称:図問研)の第70回全国大会(7月7日~8日)に参加すべく茨城県日立市に伺った。図問研は、公共図書館の諸問題に対し、科学的、実践的な理論を確立し、日常の場で実践するために、調査・研究・実践活動を積み重ねることを目的として1955年に設立された団体である。機関誌『みんなの図書館』を始めとするさまざまな出版物の刊行、全国大会の開催などの活動のほか、全国各地に支部を設け、研究と交流を進め、住民の役に立つ図書館づくりを目的に活動している。 初めて降り立った日立駅、真っ先に向かったのはローソン日立駅前店だった。ローソン日立駅前店は、2021年から出版取次大手の日本出版販売(略称:日販)とローソンが連携して展開している「LAWSON マチの本屋さん」という書店併設型店舗なのだ。茨城県では初めての出
第3回警察小説新人賞は、2024年6月27日(木)に行われた選考会にて、選考委員の今野敏氏、相場英雄氏、月村了衛氏、長岡弘樹氏、東山彰良氏による厳正な選考の結果、下記のように決定いたしました。 今回、候補作のいずれも受賞には値しなかった。厳しい言い方になるが、プロのレベルどころか、小説として成り立っていない。 「三人の密室破り」 竹中篤通 アイディアが生煮えのままで、まだ小説になっていない。そもそもなぜ密室を作ろうなどと思ったのか。ミステリ史上おびただしい数の密室が扱われてきた。今、密室ものの新作を書く意味はどこにあるのだろうか。 警察小説は、かつての本格探偵小説へのアンチテーゼとして誕生した。浮世離れした名探偵の謎解きに飽き足らない作家たちが行動派探偵小説を書き、その延長線上に警察小説が生まれた。一九四五年、ローレンス・トリートが「被害者のV」を発表して、新たなミステリである警察小説の歴
当連載は、日本在住15年の〝職業はドイツ人〟ことマライ・メントラインさんが、日常のなかで気になる言葉を収集する新感覚日本語エッセイです。 名詞「ラノベ 」 ラノベとは何か? ライトノベルの略である、などという言葉では何の説明にもならない。実際、本稿を書いている21世紀前半の文芸界で、常に多くの人がさりげなくしかし確実に気にしながら、徹底的には突き詰められず、ウヤムヤのまま漂い続けているお題だ。まさか、文字通り「軽く読める小説」と定義している人はそんなにおるまい。それほどまでに「ラノベ」という単語には、何かに対するとらえどころのないアンチテーゼ的な色合いがまとわりついている。 なんといっても、イマドキ的言語空間における「蓋然性の王者」Wikipedia にして【業界内でも明確な基準は確立されておらず、はっきりとした必要条件や十分条件がない。このため「ライトノベルの定義」については様々な説があ
「すべてのまちに本屋を」 本と読者の未来のために、奔走する日々を綴るエッセイ 年が明けて最初ということで、本年も「読書の時間 未来読書研究所日記」をどうぞよろしくお願い致します。 2024年が出版界にとって明るい一年となりますように。 出版業界についての実績が公表される11月、12月は、僕にとって気になる数字の推移を定点観測する季節となっている。 昨年11月10日には、日本出版販売株式会社(以下、日販という)の『出版物販売額の実態』最新版(2023年版)が発売された。出版市場の現状を把握するための統計資料として、日販が毎年電子版(PDF版)で発行していたが、データ活用の要望が多いことを理由に、今年からより汎用性の高い Excel 版での発行となった。類似の出版系の販売額に関する実態分析調査が相次いで廃止されたこともあり、日販の『出版物販売額の実態』は個人的に大変重宝しており、今後も調査を継
当連載は、日本在住15年の〝職業はドイツ人〟ことマライ・メントラインさんが、日常のなかで気になる言葉を収集する新感覚日本語エッセイです。 動詞「 萌える 」 「萌える」とは! 【草木が芽を出す、芽ぐむこと】…ネット国語辞典より。 違うそうじゃない! ということで21世紀前半の人民が「蓋然性の友」として半ば仕方なく頼りにしている Wikipedia(2023年8月19日時点)によると、 【日本のサブカルチャーにおけるスラングで、主にアニメ・ゲーム・アイドルなどにおける、キャラクター・人物などへの強い愛着心・情熱・欲望などの気持ちをいう俗語。意味についての確かな定義はなく、対象に対して抱くさまざまな好意の感情を表す。】 だそうだ。まあ、最大公約数的に or 最小公倍数的によく纏めましたという感じで文句はないけど、これで何か学びを得た、世界の新しい面を知ることができた、的な実感はない。 というか
当連載は、日本在住15年の〝職業はドイツ人〟ことマライ・メントラインさんが、日常のなかで気になる言葉を収集する新感覚日本語エッセイです。 名詞「四季」 観光CMとかで 「日本には、四季があります!!」 という明るい売り言葉をよく耳にするが、じゃあ外国には四季が無いのかよ、とそのたびに思う。観光用アピールであれば「日本には、日本ならではの、濃厚でいけてる四季があります!」みたいな路線で洗練されたキャッチコピーにすりゃいいのに、なぜ有る無しの極端な思考になってしまうのか? と思っていたら。 Twitterで紙魚エビさん(@bookfishswim)という方が極めて興味深い文化ツッコミをなさっていた。 学生の作文、「日本人はおもてなしの心を持っているので」とか「日本には四季があるので」とかが頻出して、そのたび「他の国の人にはおもてなしの心がないみたいですがそんなことはありませんね」「四季は多くの
当連載は、日本在住15年の〝職業はドイツ人〟ことマライ・メントラインさんが、日常のなかで気になる言葉を収集する新感覚日本語エッセイです。 名詞「帝国」 「帝国」は特にフィクション世界で大人気の単語であり、基本的に属性は悪だ。 「帝国」の定義は難しい。万人による万人のための客観的主観性の集大成である Wikipedia はいろいろと問題のある存在だが、この手の事案については絶妙なバランス感覚を見せる。というか、定義にまつわる混迷と葛藤の本質が率直に示されていて中々よろしい。政体として皇帝が仕切っていることが必要条件というわけではないよという記述の細かさなどなど、大いに参考になる。要するに、「真面目に調べたり考えたりすると即座に沼るのが確実!」という現場の実態が実によくわかる。 そんなわけで、結局のところ日常の言語空間においては、帝国「そのもの」ではなく「帝国っぽい」サムシングが、思考触媒とし
当連載は、日本在住15年の〝職業はドイツ人〟ことマライ・メントラインさんが、日常のなかで気になる言葉を収集する新感覚日本語エッセイです。 動詞「呪う」 オカルト大国といえば心霊協会で有名な大英帝国に対するリスペクトを忘れてはいけないが、わが日本もなかなかのものだ。実話怪談系が大人向けのコンテンツとして立派に成立している(もっとあけすけにいえば、インテリ路線な人がソレ系のブツを満喫しても特に恥ずかしくないとされる)あたりで、何気に勝ったも同然といえる。 ………というか、日本人の知人の話によればむしろ過去、80年代や90年代のオカルトコンテンツのほうが、子供だまし感が強かったそうな。統計的に調査したわけでもないから断言はできないけど、興味深い体感証言ではある。 いっぽうわがドイツにて、大人でオカルトに関心を持つのは基本的にイタいふるまいとされている。ぶっちゃけ、現代ドイツでオカルト趣味といえば
当連載は、日本在住15年の〝職業はドイツ人〟ことマライ・メントラインさんが、日常のなかで気になる言葉を収集する新感覚日本語エッセイです。 名詞「ガンダム」 そう、ガンダムは「日本語」だ。しかも単なる固有名詞ではない。おおまかにいえば1990年以降に成人化した日本人の「大きな原体験」のひとつであり、絶大な知名度を誇り、私が直接接した日本人(文化的サンプルとしてそこにいくぶん偏りがあるのは間違いないが)では、悪く言う人を見たことがない。 そんなこともあって「ガンダム」という単語自体は、ドイツを含む諸外国でもそこそこ認識されている。かのデザイン巨匠シド・ミードが∀ガンダムをデザインしたとかあるし、お台場の実物大ガンダムは「トーキョー観光」の名所として有名だし。 だがそのコンテンツとしての文化的価値と意味を、的確かつ端的に外国人に伝えるのは、実はなかなか難しい。単語の知名度とは裏腹に「ガンダム 海
当連載は、日本在住15年の〝職業はドイツ人〟ことマライ・メントラインさんが、日常のなかで気になる言葉を収集する新感覚日本語エッセイです。 名詞「忖度」 「忖度」は元来、「相手への配慮をベースとした行動によって、現場での発生が予期される摩擦・ストレスを最小化する」という意味を内包した、たいへん文化的に洗練された趣きを持つ謙譲語系の単語だ。言語的コミュニケーションと非言語的コミュニケーションの高次な接点を示す言葉ともいえる。 だがしかし。 二〇一〇年代後半の某与党政治スキャンダルにてこの語は、「相手への配慮をベースとした行動の非言語的コミュニケーション性って、犯罪性の隠蔽にチョー有効だよね!」という面から妙に脚光を浴びてしまう。そして揶揄語としての黒光りな性格を強めたこともあり、最終的には二〇一七年の流行語大賞に選出されるほどの人気を博してしまった。意味やニュアンスが裏返った時の謙譲語の威力の
映画や漫画、アニメにおいてモチーフにされることも多い“北欧神話”。個性豊かな神々から、おおまかなあらすじまでを紹介します! 日本をはじめ、世界各国に存在する“神話”。そのひとつ、ノルウェーやスウェーデン、デンマーク、アイスランド及びフェロー諸島といった北欧の国々に伝わる“北欧神話”は、私たちの身近なところにも大きな影響を及ぼしています。たとえば1週間の曜日の名前。以下のように、曜日の名前は北欧神話の神々が元となっています。 Tuesday/Try’s day/戦いの神チュール(天空の神チュールなど、諸説あり)の日 Wednesday/Wodan’s day/主神オーディンの日 Thursday/Thor’s day/雷神トールの日 Friday/Freyja’s day/愛・美・豊穣の女神フレイアの日 出典:http://amzn.asia/5VVi3bI また、近年では『ロード・オブ・ザ
当連載は、日本在住15年の〝職業はドイツ人〟ことマライ・メントラインさんが、日常のなかで気になる言葉を収集する新感覚日本語エッセイです。 名詞「外タレ」 「外タレ」とは「外国人タレント」の略称であるが、正式名称よりもモノゴトの本質ニュアンスを突いた単語という印象を受ける。その本質とは、 ・ちょっとやそっとでは真似のできない語学力 ・ちょっとやそっとでは真似のできない表現力 ・ちょっとやそっとでは真似のできないインチキくささ に対する羨望と揶揄のミックスだ。要するに、詐欺であることの証明が難しい詐欺師の一種みたいなものだけど、基本的に悪意はないのでそんなに嫌われていない、的なビミョーな存在である。いや、だったというべきか。 外タレという単語の浸透度は高いが、いま二〇二〇年代の日常会話で頻出するかといえばそうでもない。バブル期に発生したパワーワードが、時代の空気のマイルストーンとして現在なお一
『僕らは『読み』を間違える』は角川スニーカー文庫の新人賞・第27回スニーカー大賞・銀賞を受賞した水鏡月聖のデビュー作だ。 『走れメロス』『蜘蛛の糸』『はつ恋』といった名作のタイトルが並ぶ目次、帯の「学園ミステリーの新・本命」というコピー。古典文学が題材の学園ミステリといえば、ライトノベルの読者なら、本が好きすぎて物理的に食べてしまう「先輩」をヒロインにした野村美月「〝文学少女〟シリーズ」を思い出す向きも多いと思うが、本書はそうした先行作とは、また違った切り口を備えた作品だ。 「『読み』を間違える」というタイトルどおり、前半で語られるのは読書家の主人公による盛大な「誤読」である。たとえば『走れメロス』にはメロスを亡き者にしようと企んだ真犯人がいたとか、『蜘蛛の糸』におけるお釈迦様の残酷な真意だとか、次々突飛な読解が披露される。ともあれ、そういう読みを許す懐の深さがあればこその古典という面もあ
最近漫画編集者の Twitter アカウントが炎上したらしい。 だが、私は当該ツイートを見ていない。何回かそれと思しきツイートは流れて来たが、スマホを窓から大遠投するなどして意識的に見ていない。 何故なら私は基本的に編集者の口から出たというだけで何を言っていても怒るからだ。 例え内容が「猫は神」という宇宙の真理だったとしても「当たり前のことを言うな」「貴様らがおキャット様の名を口にするな」などの理由で怒り、部屋の物と森林を破壊、という地球に厳しい行動をとってしまうため、基本的に編集のつぶやきは見ない。 現に前のワールドカップの時、大昔にフォローした元担当のアカウントを放置していたせいで、怒りのあまり室内の気温と二酸炭素濃度を急上昇させる事態となってしまった。飛んでいたコバエが落ちたので間違いない。 公式ならまだしも編集者の個人アカウントなど見るものではない。 だが内容は見ていないが、初デー
「メタバース」という電脳語が脚光を浴びている。バーチャル現実の本格拡張版というか、要するに「物理現実と対等といえる超仮想現実」のことで、各種知覚デバイスと情報空間のスペックアップがそれを可能にするのだ。 現状、仮想通貨・NFTがらみで経済面から話題になることが多いメタバースだが、「マジでその中で暮らせる」さらに「環境を恣意的に構築できる」といった文化的価値の深さを軽視してはならない。この側面について多面的な考察のきっかけをもたらす快著が『メタバース進化論』だ。著者のバーチャル美少女ねむ氏はメタバース空間の「現役住民」であり、実感を踏まえた知的展望を存分に語ってくれる。現状の限界や「萎え」ポイントについての率直な心情吐露も興味深い。その著者が全力で力説するのは、メタバース空間では「誰もが【なりたい自分】になれる」という点だ。だってボクもこうして堂々と「美少女」としての生活を満喫しているし!
『KADOKAWA のメディアミックス全史 サブカルチャーの創造と発展』は鎗田清太郎『角川源義の時代』、佐藤吉之輔『全てがここから始まる』に続く KADOKAWA グループ三冊目の社史だ。一九八二年から二〇一八年までの歩みが同社で社長、会長を務めた佐藤辰男によってまとめられている。角川春樹から歴彦への社長交代劇から電子化時代を迎え Amazon ら巨大海外資本との交渉まで、あるいは『ロードス島戦記』『新世紀エヴァンゲリオン』『涼宮ハルヒの憂鬱』といった大ヒット作の内側が、当事者から(時に失敗も含めて)語られる。関係者のみに配布された非売品にもかかわらずSNSで大いに話題となった。 中でも「角川の強みの第一」として「ライトノベルを創造」したことが上げられているように、ライトノベルについては重点的に、そして興味深い視点から取り上げられている。 佐藤はまず KADOKAWA における新旧のメディ
評者︱マライ・メントライン 日本人「巻き込まれ」型の国際謀略サスペンス小説というのは割としばしば書かれており、それなりに評判だったりもする。が、もともとこのタイプの作品といえば広江礼威の『ブラック・ラグーン』という超傑作漫画があり、読み味でこれに匹敵するか、というのが個人的に大きな評価ポイントだ。薄汚れた誇りを身に纏いつつ戦う者たちの魂の震え…ジャパニーズヤクザであったり旧ソビエト空挺部隊の残党であったり…と、彼らに直面する一般人の感覚をこれほど鮮烈に活写したアクションサスペンスは稀有だろう。そして率直な話、この漫画に匹敵する「文芸的」威力を持った小説がなかなか出てこない歯がゆさがあった。実に漫画・アニメ大国ニッポンならではのパラドックスだが、そもそも文芸業界内の評価基準だけで秀作を抽出する業界流儀の限界を感じていたのも事実。『ブラック・ラグーン』的なストーリーラインや設定が重要なのではな
ドアのチャイムが鳴って、宅配便が届いた。 配達員さんから受け取ったその真新しい箱を、部屋の隅に積み上がったままの引っ越し用段ボールの一番上に神棚のようにのせると、私はパソコンの前に戻って仕事の続きに取り掛かった。 この小狭い新居に引っ越してきてからもう3日目なのに、荷物は一向に片付かない。その理由は簡単で、私にそもそも片付ける気が無いからだ。1日目にとりあえずベッドを組み立てて、当座の服と最低限の生活用品、仕事用のパソコン周りの諸々を取り出してからはほぼ何もしていない。 「決してズボラってわけじゃないんだけどね」 と、私は私に弁解する。仕事の締め切りも迫ってるし、引っ越しも一人暮らしも久しぶりだから、しばらくはこの殺風景で中途半端な感じを楽しみたい。 子供の頃、夏休みに庭にテントを張ってもらって妹と一緒に数日寝泊まりした時にも似た感じだ。もっともその時は蒸し暑さに耐えきれず、毎晩早々に家の
英雄と英雄が戦う話よりも、当時の世界で必死に生き抜いた人の姿が好きでした なんと、米澤穂信さんが歴史小説を上梓。これまでにも中世ヨーロッパを舞台にした『折れた竜骨』などを発表してきたとはいえ、新作『黒牢城』は荒木村重と黒田官兵衛という、戦国時代に実在した人物が登場する。しかし読めば、これは実に米澤さんらしい本格ミステリ。執筆のきっかけは何だったのか。 雑談から生まれた戦国×本格ミステリ小説 本能寺の変から四年前を舞台にしたミステリ『黒牢城』。これが米澤穂信さんの新作だといえば驚く読者は多いだろう。だがページをめくり、緻密に構築された謎と、そこから浮かび上がる繊細な人間心理を味わいつつ最後の一行までたどり着いた時、この完成度の高さは間違いなく米澤作品だ、と思うはずだ。 執筆のきっかけは、編集者との雑談だったという。 「何の気もなしに〝地下牢に閉じ込められている黒田官兵衛を安楽椅子探偵役にした
何がとはまだ言えないが、漫画が一つ連載終了することが決まった。 理由は一点の曇りもない打ち切りなのだが、実は編集者サイドは「打ち切り」という言葉は使わない。「切り替え」や「区切り」と言ったりする。 できちゃった婚を授かり婚と言うのと同じで、正直苦しいのだが、その言葉を使うことで殺傷事件を起こさずに済んでいる新婦の父親だっているはずだ。 事実上打ち切りであっても、作家の心を折らない言い方は大事である。もし担当が「打ち切り」という言葉を使ってきたら「出来るだけ再起に時間がかかってほしい」という思いが込められていると思った方がいい。 作家は意外と担当の「見限っている空気」に敏感である。例え編集部内で「うちのサイトのギガ数の無駄だから早く終わらせよう」というやりとりがあったとしても、それをそのまま作家に伝えてはならない。 せめて「もうちょっと有効なギガの使い方を一緒に考えましょう」ぐらいにしておく
本当に俺にプロレスの話を聞きたい? だとすると、ばあちゃんの話から始めなきゃいけないな。 でも、約束してくれ。俺に、プロレスは〝芝居〟なのか?って、絶対に聞かないでくれよ。 ばあちゃんはいっつも、自分の小さな部屋に籠もってテレビを観ていた。小さい頃の俺も、ばあちゃんと一緒に一晩中テレビを観ていた。いや実際は一晩中ってわけじゃなく、九時か十時になるとばあちゃんは、明日も学校があるだろとかなんとか言って俺を部屋から追い出した。 ばあちゃんだって完全に家に閉じ籠もっていたわけじゃない。ばあちゃんが毎朝何時に起きているのか、じつは今でも知らないけど、朝起きるとまず近くの廟に行って、近所のじいちゃんやばあちゃんたちのダンスの隊列に加わっていた。午後、天気が悪くなければ、散歩するついでに近くの小学校まで俺を迎えにきて一緒に家に帰った。あの頃、来福は生まれたばかりだった。 この辺は少し早送りするよ。中学
エッセイの連載が始まった。こういう連載は初めてなので何を書くか悩んでいたが、そういえば大学生作家時代のことなんかはあまり文字にしたことがなかったな、と今更ながら思った。なので学生時代の思い出なんかを振り返って書こうかと思っている。 私は二十歳の時に本を出版し、今年で七周年になる。京都の宇治で生まれ育ち、宇治で生涯を終える気満々だったのに、流れに身を任せてなんとなく生きていたら何故だか上京することになっていた。大学生作家とちやほやされた期間はとっくに過ぎ、気付けばアラサーだ。その割に、大した社会経験を積んだわけでもなく、運よく得られた仕事に生活の大半の時間を費やし、ダラダラと生きている。実際問題どうなんだろうな~、こういう人生って。なんて考えたりもしつつ、実家の猫に会うために三か月に一度は京都に帰っている。そしてお気に入りの茶屋で京番茶とほうじ茶をしこたま買い込み、また東京で働く日々だ。 実
大阪を舞台にした異形の恋愛小説『死にたくなったら電話して』で、李龍徳は第五一回文藝賞を受賞し純文学のフィールドで活躍してきた。 第四作となる『あなたが私を竹槍で突き殺す前に』は、人間の悪意を突き詰める作家性はそのまま、エンターテインメントの回路を全開にした全三八四ページの自己最長長編小説だ。 物語は、衝撃的な一文から始まる。 〈排外主義者たちの夢は叶った〉 その世界では特別永住者制度は廃止され、外国人への生活保護が違法となり、現実では二〇一六年に公布・施行されたヘイトスピーチ解消法も廃止となった。日本初の女性総理大臣は「極右」であり、在日コリアンを攻撃対象に特化し、「嫌韓」によって大衆の愛国心を焚きつけた。ヘイトクライムによって殺人事件が引き起こされたにもかかわらず、大衆は「愛国無罪」の論調を支持し被害者を糾弾する──。『あなたが私を竹槍で突き殺す前に』は、パラレルワールドの近未来日本が舞
出町柳駅で下車し、鴨川に掛かる橋を歩く。学生の街と言われるだけあり、京都では至る所で学生の姿を見掛けた。そして数年前まで私もその中の一人だった。 「えー、君たちウチの大学通っててアレ食べてへんの?」と美学芸術学の教授は笑った。私が一回生の頃の話だ。授業中の教室には百人程度の学生がおり、どの子も同じ学部の生徒だった。「アレってなんですか?」と一人の生徒が空気を読んで尋ねた。「アレってアレやん。『出町ふたば』の豆大福。僕はね、アレを初めて食べた時感動したのよ。これを食べずに卒業するなんて勿体ないで」それからしばらく教授の豆大福トークが続いた。内容はほとんど覚えていないが、とにかく教授のグルメレポが凄かったのだけは覚えている。なんせその翌日の授業終わりには、私は出町商店街へと足を運んでいたのだから。 実を言うと、私はそれまでの人生で豆大福を食べたことがなかった。別に嫌いだというわけじゃない。ただ
目標は、全国コンクールでの金賞! 吹奏楽に青春を掛ける高校生たちの成長を描いた青春小説「響け!ユーフォニアム」シリーズが完結しました。TVアニメ・劇場版アニメも大ヒット。累計159万部を突破したシリーズは、なぜ吹奏楽に馴染みのない読者をも虜にしたのでしょうか? 6年の歳月をかけてこの物語に向き合ってこられた著者の武田綾乃さんに、その想いを聞きました。(2019年7月5日・都内某所にて) 「ユーフォニアムはこんな楽器」と胸張って伝えたい 小説丸 『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、決意の最終楽章 後編』の刊行で、シリーズがついに完結しましたね。いま、どんなお気持ちですか? 武田 最終楽章の終盤はもう締切がギリギリだったので、ひたすらに慌ただしい感じだったのですが、最後のページを書き上げた直後は、やっぱり寂しさがこみ上げてきましたね。疲れがドッと来たのはその後でした。 小説丸 6年、で
一九八七年を舞台に、大学進学で上京した青年の一年間を描いた吉田修一さんの青春小説『横道世之介』。お気楽な性格の世之介の行動に笑いながらも、途中で明かされる事実に涙した読者も多かったのではないか。まさかその続篇『続 横道世之介』が世に出るとは。そのきっかけは、何だったのか。そして描かれる内容とは。 きっかけは文芸誌からの依頼 「もともと続篇を書くつもりはなかったんです。『横道世之介』は映画にもなりましたし、もう自分の手を離れていろんな人に愛されているイメージでした。だから今回、遠くに行っていた人と久々に会えたという感覚がありますね」 と、吉田修一さん。あの青春文学の名作の続篇、『続 横道世之介』が書かれるきっかけは意外なところにあった。 「文芸誌『小説BOC』が創刊する前、連載小説を依頼されたんです。内容を決めずに引き受けた後で、人からあの文芸誌は八作家九名の執筆者が競作する『螺旋』という企
週末です。今年のノーベル文学賞は韓国の作家ハン・ガンさんに決まった、というニュースが先日ありましたね。神保町で韓国書籍専門店を営み、『菜食主義者』などを出版してきた金承福さんのインタビューを読むと、あながち「遠い世界のニュース」ではないのかも…!?▼(乗組員おー)
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