札幌市中心部から北西へ車を30分ほど走らせると、北海道一の大河・石狩川の下流にたどり着く。暖冬と言われる今冬だが、川岸は冷たい風が吹きすさび、川面には氷が張っている。 石狩大橋と新石狩大橋に挟まれた左岸に、江別市・対雁(ついしかり)地区はある。今は川沿いに工場や住宅が並ぶ一帯は、元々は約150年前、明治政府によって人工的に作られた集落が始まりだ。住民は、樺太(現ロシア・サハリン)から強制的に連れてこられた「樺太アイヌ」の人々だった。 地区内にある市営墓地・やすらぎ苑の小高い場所に、2基のお墓が立つ。一つには「乗仏本願生彼国」、もう一つには「樺太移住旧土人先祖之墓」と刻まれている。 ◇ 樺太に住んでいたアイヌの人たちが、対雁に移住してきた背景には、現在につながる領土問題がある。 アイヌはじめ先住民族、ロシア人、日本人が雑居していた樺太は、日露和親条約(1855年)では国境が画定できず、両国間