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アメリカ大統領選
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第65回 「鹿野さん、ごくろうさまっ」 『サはサイエンスのサ[完全版]』(鹿野 司 著、早川書房) この“読書ノート”の連載のもうひとりの執筆者である鹿野司さんがこの世を去って2年、鹿野さんのライフワークと言うべき科学コラム連載の全部が、一冊の本にまとまって出版された(2024年9月刊)。 「サはサイエンスのサ」は1994年から2022年の死の直前まで、「SFマガジン」誌に掲載された。2010年1月には、それまでの掲載分の中からのより抜きで単行本化され、その年の優れたSF及びSF関連作品を表彰する星雲賞を受賞している(第42回[2011年]、ノンフィクション部門)。 完全版と銘打たれた今回の本は、28年間の連載のすべてを収録している。全648ページ、書きも書いたり28年という印象だ。 お値段も消費税込み4840円とけっして安くはない。が、これは是非とも買って読んでほしい。ここには鹿野司とい
第63回 『安倍三代』と整合する安倍晋三像を求めて 『検証 安倍政権 -保守とリアリズムの政治-』 (アジア・パシフィック・イニシアティブ、文春新書) 最初に。没後1年8か月を経て、歴史的人物として評価する時期が始まったと考えるので、以下「安倍さん」でも「安倍氏」でもなく、安倍晋三と表記する。 前回取り上げた『安倍三代』(青木理 著、朝日新聞出版、2017年)では、安倍寛(あべ・かん、1894~1946)、安倍晋太郎(あべ・しんたろう、1924~1991)、安倍晋三(あべ・しんぞう、1954~2022)という安倍家三代の政治家の肖像を徹底した取材で描き出していた。著者は安倍晋三が、祖父・父と比べて異質であると指摘していた。著者の青木氏が関係者から引き出した安倍晋三像は「要領は良いが、飛び抜けて優秀なわけでも、全くダメなわけでもない。優しいが影は薄い」というものであり、要約すると「信念がない
第62回 あまりに異質であった三代目 『安倍三代』(青木 理 著、朝日新聞出版) ずっと続けてきた阿片を巡る読書だが、現在少々停滞している。問題意識は「昭和初期から敗戦に至るまでに大日本帝国が国際条約に違反して商った阿片の収益は、戦後の日本の政治にどう関係したのか」だが、だいたい出版されている本としては読み尽くしたかな、というところまで来てしまった。 そこで、逆方向から攻めることにした。ここまで、日清戦争による台湾の植民地化から始めて時代を追うようにして読書してきた。では、逆に現在から歴史を遡るようにして読書していったなら、なにか分かるだろうか。 阿片に関係し、戦前と戦後をつなぐキーパーソンは、間違いなく岸信介だ。しかし岸は賢く、老獪であり、容易なことでは尻尾を出さない。ならば、現在から岸へと遡る形で読書すれば、なにかが見えてくるのではないか。 というわけで読んだのが今回取り上げる『安倍三
数学をまなぶうえで大切な姿勢として「行間を埋める」ことがあげられる。数学の教科書では、$P$ という仮定から $Q$ という結論が導かれるまでにいたる推論の過程は必ずしも丁寧に書かれているとは限らず、省略されていることが多い。そうした省略に対して無頓着であることは正しい理解を妨げる危険な行為であり、読者には省略された「行間」にある推論の過程を補い「埋める」ことが望まれる。 本シリーズでは、そうした「行間を埋める」ことを助けるために、下記のエ夫を行った。 ◆ “手を動かしてまなぶ”シリーズの特徴 ◆ ● 全体のあらすじが見渡せるよう「全体の地図」を設けた(書籍掲載またはウェブ公開)。 ● 読者自身で手を動かして解いてほしい例題や、読者が見落としそうな証明や計算が省略されているところにアイコンを設けた。その具体的なやり方を別冊「行間を埋めるために」でウェブ公開した。 ● ふり返りのマークを用い
第58回 さようなら、鹿野司さん 『オールザットウルトラ科学』(鹿野司 著、ビジネスアスキー、1990年刊) 『サはサイエンスのサ』(鹿野司 著、早川書房、2010年刊) 『教養』(小松左京・高千穂遙・鹿野司 著、徳間書店、2000年刊) 「歳を取ると避けられないのは友人の死である」と書いていたのは星新一『祖父・小金井良精の記』だったか──2022年10月17日、サイエンス・ライターの鹿野司さんが長年の闘病の末に亡くなられた。享年63歳。 この連載は「松浦晋也の“読書ノート”」「鹿野司の“読書ノート”」という対で構成されているが、その一方を担っていた鹿野司さんだ。鹿野さんの担当分は2016年6月で休載となっていた。 鹿野さんとはじめて会ったのは1999年の秋、宇宙作家クラブ設立の準備会合の時だ。だが、それよりもずっと前に私は鹿野司という人物を知っていた。マンガを通じて知っていた。とり・みき
第55回 阿片頼みだった満洲国の財政 『満洲国の阿片専売 -「わが満蒙の特殊権益」の研究-』(山田豪一 著、汲古書院) 前回、里見甫(1896~1965)と甘粕正彦(1891~1945)という2人の阿片フィクサーが、戦前・戦中の中国大陸において具体的にどのようなルートで阿片ビジネスを行っていたかを、推測を交えつつもある程度解明した。公立図書館の蔵書を読んで付き合わせるだけで、けっこう分かるものだと、私も驚いた。 彼らの阿片ビジネスが紋様だとして、ここで問題になるのは「地」だ。つまり、そもそも20世紀の中国大陸において、阿片という作物・商品はどのような位置付けで、どのように栽培・精製され、流通していたのか。その地に乗っかるかたちで里見も甘粕も、そして関東軍も阿片に関わっていったのだから、地を押さえることで日本が彼の地で行っていた阿片ビジネスの全体像が見えてくるはずである。 そこで見つけたのが
手を動かしてまなぶ 集合と位相 Set Theory and General Topology through Writing 関西大学教授 博士(数理科学) 藤岡 敦 著 A5判/332頁/定価3080円(本体2800円+税10%)/2020年8月発行 ISBN 978-4-7853-1587-0 C3041 ★ がんばる初学者・独学者を全力応援! ★ 「抽象的で難しい」と敬遠されがちな位相空間。でも、この本でまなぶと──。 集合や写像は数学を深く理解するために必須の言語であり、集合に開集合系を定めてできる位相空間は極限操作や連続性を考察するために欠かせない概念である。現代数学は位相空間という舞台装置の上に成り立っているといっても過言ではない。 理解を助けるための図が多く、自習用の詳細解答付き。さあ、ペンをもって、手を動かしてみよう。集合・位相の実践大全! → 「手を動かしてまなぶ」シ
第28回 植民地台湾の阿片根絶の実際 劉明修 著『台湾統治と阿片問題』(山川出版社) 阿片関係の読書を続ける中でずっと気になっていたのは、「日本の植民地だった台湾で、阿片はどのような経過をたどって根絶されたのか」ということだった。後藤新平(1857~1929)が打ち出した漸減策が功を奏したとは良く言われるが、本当にそうだったのか、なにか裏はなかったのか――それは同時に星新一が『人民は弱し 官吏は強し』(新潮文庫ほか)で描いた「果敢なベンチャーだった星製薬が国ぐるみのいじめで破滅する」という構図がどの程度の正当性をもつのかとも関わってくる問題だ。 そこでみつけたのがこの『台湾統治と阿片問題』。ここまでの読書で溜まった疑問の多くが解決する好著だった。 著者(1937~2006)は台湾出身の台湾近代史の研究者。東京大学でこの本の基礎となる論文で博士号を取り、後に日本国籍を取得して伊藤潔という名前
第44回 ウイルスを巡るリアリティ、知識、偶然、そして人類への信頼 小松左京 著『復活の日』(角川文庫/ハルキ文庫/早川書房) 前回のこの連載のテキストファイルには2019年12月23日というタイムスタンプがついていた。 その時点では、こんなことになるとは思ってもいなかった。新型コロナウイルスCOVID-19によるウイルス性肺炎のパンデミックである。 厚生労働省ホームページを見ると、「中華人民共和国湖北省武漢市における原因不明肺炎の発生について」というアラートが出たのは今年の1月6日だ。その時点で「昨年12月以降、原因となる病原体が特定されていない肺炎の発生が複数報告されています。」と書かれている。 その10日後の1月16日には、「新型コロナウイルスに関連した肺炎の患者の発生について(1例目)」と、日本国内での最初の患者が報告され──そこからは皆さんご存知の通りだ。この原稿を書いている3月
第41回 優れた表現を襲う病んだ心 三島由紀夫 著『金閣寺』(新潮文庫) いったい何を言えば良いのか分からない──。 2019年7月18日、京都市伏見区にあるアニメーションスタジオ、京都アニメーションに暴漢が侵入し、大量のガソリンを撒いて放火。死者34名、負傷者34名という大惨事が発生した。 京都アニメーション、通称京アニは、21世紀に入ってから次々に秀作アニメーションを発表し、世界的にも高い評価を受ける、日本のアニメ制作における有力拠点であった。 私が最初に京アニ作品を知ったのは、同社初の元請け(同社が主体となって制作する)作品『フルメタル・パニック? ふもっふ』(2003年)だった。「ふもっふ」という妙な修飾で分かるように、この作品には『フルメタルパニック!』という元となったアニメ作品がある。同名の賀東招二・原作のライトノベル(富士見ファンタジア文庫)を、京アニとは別の会社がアニメ化し
数学基礎論序説 -数の体系への論理的アプローチ- Logical Foundations of Mathematics 東北大学名誉教授 Ph.D. 田中一之 著 A5判/388頁/定価5940円(本体5400円+税10%)/2019年6月発行 ISBN 978-4-7853-1575-7 C3041 意味と形式の織り成す世界へ――。 数学基礎論の入門から最先端までを、大胆な構成と精緻な記述で探る。21世紀の数学基礎論を切り開く力作。 「第1部 数理論理学入門」では、数学基礎論の基本ツールとなる数理論理学を初学者に向けて丁寧に解説。1階論理のエッセンスをゲーデルの完全性定理を中心に学ぶ。 「第2部 自然数と実数の形式体系」は数学基礎論の入門編で、自然数論に関するゲーデルの不完全性定理や、実数論に関するタルスキの完全性など、1970年頃まで(「逆数学」誕生以前)の数学基礎論を展望する。 「第
第37回 消費税で日本は滅ぶ トマ・ピケティ 著『21世紀の資本』(みすず書房) 私は機械工学科卒で物書きをしている、崩れ理工系というべき存在だ。その“崩れ”が、ここ数年、経済学に興味を持ってあれこれ読みあさっている。あれをしたいこれを作りたいと思っても、先立つ金はそう簡単に手に入らない。となると、経済学を知ってこの社会の金の回り方を理解しなくてはいけないだろう、と考えてのことだ。 が、崩れ理工系にとって、経済学はなかなかの難物だった。何を読んでも理解できた気分にすらならない。手がかりはどこにあるのか、と経済学における「保存量」を探したこともあった。物理学ならエネルギーや運動量のような保存量を手がかりに理解を深めることができる。四苦八苦したあげく「価値も貨幣も無から湧くので保存量ではない。保存量がないのが経済学の特徴である」と気が付くまで、かなりの時間がかかった。 そんな中で、一発で理解で
第36回 二輪産業を締め上げた私達の「新しいもの嫌い」 おりもとみまな 著『ばくおん!!』(秋田書店) トネ・コーケン 著『スーパーカブ』(角川書店) 一つ質問、1980年に643万4524、2017年に64万6983――これが何か分かるだろうか。 答えは国内の二輪車生産台数である(日本自動車工業会調べ)。今や日本国内におけるバイク産業は最盛期の1/10になってしまっているのである。壊滅と言わねばならないほどの惨状だ。 その背後には若者がバイクに乗らなくなったという事情がある。車検がないため維持費が安く入門用に購入されることが多い排気量126cc以上、250cc以下のエンジンを搭載した軽二輪車の生産台数は、1980年に66万831台だったものが、2017年には7万8993台にまで落ち込んでいる。 バイクが売れていた1970年代から80年代にかけて、『750ライダー』(石井いさみ)、『ふたり
● 分野別 書籍のご案内 ● ○ 数学 ○ 物理学 ○ 化学 ○ 生物学 ○ その他の分野一覧 ● シリーズのご案内 ● ○ 量子力学選書 ○ 化学の指針シリーズ ○ 新・生命科学シリーズ ○ その他のシリーズ一覧 ● その他の書籍検索 ● ○ 書名五十音別 ○ ISBN順 書籍一覧 ○ 改訂書籍一覧 ○ 新装版書籍一覧 ○ 電子書籍のご案内 ○ POD版のご案内 ○ 総合図書目録(New!) ○ 学会誌「材料の科学と工学」 ○ [四半期毎の]売上げベスト10 ○ 分野別売上げランキング ● イベント等のご案内 ● ○ 裳華房フェア(5/28更新) ○ 各種フェアなどのご案内(5/28更新) ○ 出版物の複写について ○ 弊社の書籍について ○ 出版をお考えの方へ
理工系図書の出版に関連するホームページを集めてみました。 新刊情報や図書案内にとどまらない、いろいろな情報が得られます。(配列は社名の五十音順) 朝倉書店 主に理学・工学・医学・農学・人文科学・家政学などの専門書や大学の教科書を刊行しています。とくに事典・辞典、ハンドブックなどの大型出版物の刊行では、大変に定評のある出版社です。 岩波書店 『科学』 1931年に創刊された総合科学雑誌 『科学』のページ。「科学」から生まれた本のページや、特別公開記事・資料なども閲覧できます。(→ 岩波書店) エヌ・ティー・エス 『生物の科学 遺伝』の刊行をはじめ、ナノテクノロジーから環境まで幅広く理工系書籍を手がけています。 オーム社 電気、機械、建築、設備分野を中心に、人工知能、機械学習などのIT関連、医学、薬学系など多方面にわたる雑誌や書籍を刊行しています。また、発行出版物に関連する技術者向けのセミナー
第12回 母なる関数、母関数 大野 泰生 数学で用いられる専門用語の中には,西洋数学の流入以前からのもの,海外の専門用語を和訳したもの,あるいは日本人の貢献などによって日本で名付けられ海外に広がったものなど,様々な経緯の用語が存在している.どの種類の用語であれ,それぞれに味わいがあって興味深いものも多い. 海外で用いられている名前(の和訳)よりも,和名のほうが優れていると感じる用語もある.例えば「母関数(ぼかんすう)」という名前は秀逸であると私は思う. ◇ ◇ ◇ ある数列に対して,その数列を展開係数にもつ関数は,その数列の母関数と呼ばれる.フランスの数学者ド・モアブルによる $1730$ 年の研究で最初に使われたと言われている.英語では“generating function”.直訳すると「生成関数」であろうか.実際,「生成関数」という和名をもって呼ばれることもあるようだが,私の
(イラスト:マエカワアキオ) 執筆者紹介 大野 泰生 (おおの やすお) 1969年生まれ.東北大学大学院理学研究科数学専攻教授. 専門は整数論,多重ゼータ値など.趣味は美味しいものを探すこと. 一般向け著書に『白熱! 無差別級数学バトル』(共編,日本評論社)がある. 谷口 隆 (たにぐち たかし) 1977年生まれ.神戸大学大学院理学研究科数学専攻准教授. 専門は整数論,概均質ベクトル空間.趣味は中国茶. ブログ「びっくり数学島」でも数学について綴っている. 「数学者的思考回路」 Copyright(c) 大野泰生・谷口 隆,2015~2017 著作権法上の例外を除き,無断で本コラムの全部または一部を転写・複製等することはできません. (→ 【裳華房】Webサイトのご利用について)
第17回 子供と学ぶ二度目の算数 谷口 隆 子供を育てることは人生を二度生きるようなものだと言われることがあるそうだ.職業柄,我が子が数の感覚や概念をどう身につけていくのか興味がいくのだけれど,その試行錯誤や紆余曲折を見ていると,自分もこうだったのかな,と思うことがある.一緒に算数をしていて,「あたりまえ」と思っていたことがあまりそうでもないと気づかされることも往々で,そんなときはもう一度算数を学び直している気分になったりもする.そんなエピソードをいくつか綴ってみたい. ◇ ◇ ◇ 休日の朝ゆっくり寝ていたら,子供が先に起きて「てんつなぎ」というプリントをして遊んでいた.番号の振ってある点を数字の順に線で結んでいくと,車や動物などの絵ができあがるというものである.見に行ったらしかし, $23$ で止まっている. $24$ と $42$ の両方の点が目に入って,どちらが $23$ の
第27回 日本陸軍のために存在した商社と阿片ビジネス 山本常雄 著『阿片と大砲 -陸軍昭和通商の7年-』(PMC出版) 星一から始めた阿片関連の読書がすっかり面白くなってしまい、図書館から本を借りてはああだこうだと読み進めている。 阿片は習慣性と毒性とで消費者を地獄に叩き込み、社会を衰弱させる一方で、その習慣性故に供給者には確実な利益を約束する。「確実な破滅を供給しつつ確実な利益を約束する」のだから、阿片ビジネスはその時々の人間社会の倫理のありようを反映することになる。 阿片を商うということは、「他人を踏みつけにして良い理屈を、その組織や社会が持っている」ことを意味する。第二次世界大戦の敗戦を迎えるまでの日本は、政府機関が裏金のために阿片を商っていたのだから、おせじにも時代を超えた倫理性を備えた組織・社会であるとはいえない。つまり阿片を調べていくと、「とても格好悪くて、倫理的とは言えない昔
第26回 阿片ケシ篤農家の生涯と、星一の苦難 二反長半 著『戦争と日本阿片史』(すばる書房) 前々回、前回と星製薬の創業者である星一(ほし・はじめ、1873~1951)から話を展開したが、星一とモルヒネ(いうまでもなく阿片ケシの未熟果から採取する樹液から精製される)のことがどうしても気になって、『戦争と日本阿片史 -阿片王 二反長音蔵の生涯-』を読んでみた。本来なら一の息子である星新一の『人民は弱し 官吏は強し』(新潮文庫ほか)から読むべきなのかも知れないが、こちらは学生時代に読んで、みっちりと描き込まれた官による陰湿な民間いじめにすっかり参ってしまった記憶があって、どうしてもすぐには読む気になれなかったのである。 本書は、日本の阿片ケシ栽培の先駆者である二反長音蔵(にたんちょう・おとぞう、1875~1951)の生涯を阿片栽培の歴史とからめてまとめた本である。著者は音蔵の次男で、1907年
第22回 郊外の街の歴史が証す「昔は良かった」の嘘 舟越健之輔 著『箱族の街』(新潮社) 昨年末に国土交通省が子育て・介護支援に向けて3世代同居住宅に補助を出すという方針を出してから、どうにももやもやしている。「おじいちゃん、おばあちゃんが同居していた時代は良かった」という懐古主義の結果のように思えるためだ。 今の安倍政権には「昔は良かった、昔のようにしないと」という意識があるのだろう。国交省の3世代同居住宅への補助も、もとは安倍首相ないしその周辺の発案のようで、2015年11月に安倍首相はスピーチ中で「大家族で支え合う生き方も、選択肢として提案していきたいと考えています」と述べている。 しかし、だ。 それぞれの時代の生活のありようは、その時代の状況に適応した結果だ。時代が変われば状況も変わる。そして同じ状況が再現することはまずない。だから単に昔はうまくいっていた手法を踏襲しても、待ってい
第21回 救われない代替医療の実態 ポール・オフィット 著『代替医療の光と闇 -魔法を信じるかい?-』 (地人書館) 個人的な話だが、私の父は12年前にガンで他界した。再発を繰り返し、病状が進行すると父は一切の医療を「もうつらいことはしない」と拒否した。そして「なすべきことをし終えた者はいつまでも生きるべきではない」と言って死に支度をはじめた。たまったものではないのは家族のほうで、医療を拒否した父のために、なにか効果があるものを、と代替医療にすがった。キノコのエキスに海草からの抽出物、北米原住民のハーブからアンズや梅の種などなど、どれも結構な値段がした。父はそれらすべてを「そうか」とだけ言って服用したが、それはむしろ自分が治癒するためではなく、自分を気遣う家族の気持ちに配慮した結果だったのだろう。半年後、父はこの世を去り、家族は高いカネを払った代替医療のサプリメントはガンには効かないという
差に注目してほしい.例えば $x=10^6$ なら差は $129$ だ. $7$ 万 $8000$ 個ぐらいを $130$ 程度の差で見積もっているというわけだ. $x=10^8$, $10^{10}$ のときの差もみてほしい.それぞれ実際の個数と $800$, $3000$ 程度の差である.誤差の $0.16$ %, $0.013$ %, $0.00068$ %も,先ほどの $8.4$ %, $6.1$ %, $4.8$ %とは文字通り桁違いで, $0$ に近づいていくスピードも断然速い. ここまで近ければ, $\pi(x)$ と ${\rm Li}(x)$ に何か関係があると考えたくなるのは人情ではないだろうか. ${\rm Li}(x)$ のこの近似のよさは,「素数はランダムに散らばっている」と考えていた当時の数学者にこの上なく鮮やかな印象を与えた.力強い法則の存在を感じさせ,心を惹
第20回 相対論を視覚化すると 石原藤夫 著『銀河旅行と特殊相対論』『銀河旅行と一般相対論』 (いずれも講談社ブルーバックス) 相対性理論によると、光速に近づくと、双子の年齢がずれる「双子のパラドックス」のように色々と日常の感覚では考えられないおかしなことが起きる。このことは、一般解説書などによって割と良く知られている。 そんな中の一つに、見え方の問題がある。光速に近づくほど、移動する物体は進行方向に短縮して見える──ローレンツ短縮だ。では本当にローレンツ短縮を見ることはできるのか。物理学者ジョージ・ガモフ(1904~1968)が著した一般解説書『不思議の国のトムキンス』(白揚社)では、光速が極端に遅い街で、トムキンス氏はローレンツ短縮を目撃していたが、本当にそうなのか。 というわけで、今回取り上げる『銀河旅行と特殊相対論』と『銀河旅行と一般相対論』は、“相対論的現象が実際にどう見えるのか
第1回 数学書の読まれ方 谷口 隆 専門的な数学書の出版を手がける出版社は何社かあるが,なかでも裳華房は,私たち数学者にとってはもっともお世話になっている版元のひとつである.右下にあるリンクをたどっていくと,多くの定評ある本の名が出てくる.個人的には,私も『数論序説』(小野孝)で整数論に入門させてもらった.このような専門書は数学者の活動の支えになっている.もし裳華房が突如消失でもしたら(?),私たち数学者としてはさぞ困ったことになるだろう. ところでそのような専門的数学書,実は,一般的な感覚からするとやや変わった,風変わりな読まれ方をしている.今回はこのことをちょっとお話してみたい. 何といっても目立つのは,本を読むスピードが極端に遅いことだろう.「1年かけて1冊の半分手前ぐらいまで読めた」なんていうと普通は何かの冗談だろうけれど,実は数学書ではそういうことがあちらでもこちらでも起きている
第3回 サイン・コサイン・タンジェント 谷口 隆 8月の終わりに,とある県の首長が教育会議で,「女性委員には怒られるが」と前置きした上で「高校教育で女の子にサイン,コサイン,タンジェントを教えて何になるのか」「社会の事象とか植物の花や草の名前を教えた方がいい」と述べたというニュースがあった.もちろん即大騒ぎとなり,首長氏は翌日釈明の上で発言を撤回した.これが撤回で済むというのも不思議だが,まぁとにかく,女性だから三角関数を教える意味がないというのは到底容認できない考え方だ.とはいえヒートアップするばかりでは今ひとつ生産的でなさそうなので,気を取り直して少し冷静に考えてみる. 突き詰めれば結局,どこかで “三角関数を学ぶ意義” も問題になるだろう.男女差別の観点からは例えば,朝日新聞デジタルの『WEBRONZA』で高橋真理子さんにより論じられているので,それは少し脇に置こう.三角関数はこれま
第18回 本 ~先輩からの贈り物~ 大野 泰生・谷口 隆 T:「数学者的思考回路」も丸 $2$ 年.予定の最終回を迎えることになりましたね. O:依頼をもらったときは,こういった連載ができるかどうか,半信半疑でしたね.いろいろな経験をしながら今回に至りました. T:読者の方から連絡もいただきましたね. O:読者の反応というと,谷口さんは執筆者紹介に挙がっている「びっくり数学島」で,経験があったのではないですか. T:そうですね.数学関係者のほか,昔の知人,また思わぬ方からご連絡をいただいてビックリしたこともありました. O:「数学者的思考回路」では,そういった方々に加えて高校生やアイドルグループのファンらしき方からも嬉しい反応がありましたね. ◇ ◇ ◇ T:大野さんの紹介に挙がっている『白熱!無差別級数学バトル』は,執筆陣の意欲とこだわりが感じられる本ですね.書店の読者コメントに
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