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寺田寅彦 ねずみと猫
一 今の住宅を建てる時に、どうか天井にねずみの入り込まないようにしてもらいたいという事を特に請負人... 一 今の住宅を建てる時に、どうか天井にねずみの入り込まないようにしてもらいたいという事を特に請負人(うけおいにん)に頼んでおいた。充分に注意しますとは言っていたが、なお工事中にも時々忘れないようにこの点を主張しておいた。大工にも直接に幾度も念をおしておいたが、自分で天井裏を点検するほどの勇気はさすがになかった。 引き移ってから数か月は無事であった。やかましく言ったかいがあったと言って喜んでいた。長い間ねずみとの共同生活に慣れたものが、ねずみの音のしない天井をいただいて寝る事になるとなんだか少し変な気もした。物足りないというのは言い過ぎであろうが、ほんとうに孤独な人間がある場合には同棲(どうせい)のねずみに不思議な親しみを感ずるような事も不可能ではないように思われたりした。 そのうちにどこからともなく、水のもれるようにねずみの侵入がはじまった。一度通路ができてしまえばもうそれきりである。 夜