さっきまで雲を焦がしていた紅蓮の焔は、鈍色の灰に覆われようとしていた。望んだわけではないが、老騎士はもう長いこと、ただ空の移ろうのを眺めていた。 静かだった……数刻前まで、確かにここは鬨の声が轟く戦場だったが、いまは無言の骸が点々と転がる草原に過ぎなかった。 パキッ…… 突如、数ヤルム先で焼け焦げた枝を踏み折る音が聞こえる。ゴブリンの戦場泥棒がもう嗅ぎつけてきたのだろうか。 彼らは指輪が欲しければ、指ごと取る。剣を見つければ、手近なもので試し切りする。見つかれば、命はまずない。老騎士はもう一度、歯を食いしばって、いうことをきかぬ忌々しい脚を動かそうと試みたが、やはり徒労に終わった。 パキッ、パキッ、パキッ…… 足音がゆっくりと近づいてくる。間隔が短い。四足のそれだ。 死肉を喰らいに来たヘルハウンドだったか…… 振り回す余力はないと分かっていたが、老騎士は脇に抱えていた剣の柄に、鉛の手をかけ
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