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世界禁煙デー
nakata-kttk.hatenablog.com
2018年4月に行われたリチャード・パワーズ『オーバーストーリー』(木原善彦訳、新潮社、2019年)出版直後のイベントの動画がYoutubeにアップされている1。ゲストは当ブログで前回紹介した『ヨーロッパ・セントラル』のウィリアム・T・ヴォルマン。まずヴォルマンが登壇し『オーバーストーリー』の一部を朗読したあと、パワーズが壇上に上がり「フィクションとノンフィクションで私に大きな影響を与えた」とヴォルマンを紹介するのだが、そこでパワーズはユーモアを交えてこう言う。 「私が思うに、その流行(フィクションだけでなくノンフィクションも書く)を始めたのは、私たちの友人であるデイヴィッド・フォスター・ウォレスだろう。(…)私たちはみな共通の美学で結びついていたが、それはみなが同じ属性の人間だったからだ。つまり白人で、男性で、同世代で、身長180cm以上だったということだ」 経歴を確認すると、生まれた年
実は私はかなりのボクシングファンなのだが、それを知っている編集者の友人が面白いことを教えてくれた。ハワイの日系二世作家が書いた作品に、貧困から抜け出すためにボクシングを始めるという描写があるという。さらに、著者の意向で邦訳NGとなっているそうだ。それがミルトン・ムラヤマ(1923-2016)の連作短編集All I Asking For Is My Bodyだ。早速取り寄せて読んでみたが……この作品はボクシング小説云々以前に、文化と文化との間に揺れ動く人々を103頁に一文の無駄もなく詰め込んだ、移民文学の傑作だ。 ミルトン・ムラヤマ(1923-2016)は、九州からのハワイ移民の子として生まれる。1941年、高校卒業後にハワイ大学へ進学。同年12月、真珠湾攻撃によって日本とアメリカが交戦状態となると、ムラヤマは日本語話者として台湾へ送られ、日本兵捕虜などに対して通訳などの任務に就いていた。戦
編集者である知人Mがこんな話を聞かせてくれたことがある。Mがとある寿司屋に入り、たまたま隣に座ったアメリカ人と話してみると、なんとそのアメリカ人は学生時代にポストモダン文学を専攻、しかもトマス・ピンチョンを研究していた人物だった。Mは自分がリチャード・パワーズのファンであること、パワーズ作品の魅力を熱く語ったのだが、そのアメリカ人は「ごめん、パワーズって誰?」と答え、最近の好きな作家としてジョナサン・フランゼン、そしてデイヴィッド・フォスター・ウォレスの名を挙げたという。 邦訳が少なく日本の読者にとって未知の存在、しかし本国では現代を代表する大物作家、デイヴィッド・フォスター・ウォレス(David Foster Wallace, 以下DFWと略す)。そのDFWの代表作であり、アメリカにセンセーションを巻き起こし未だに読み継がれる小説こそ、1996年に発表された1079頁のメガノベル、Inf
2021年の全米図書賞受賞作。本書の紹介の前に、ここ数年のアメリカの文学賞受賞作で差別を扱った作品について考えてみよう。つまり、オバマ大統領当選によって「人種差別は終わった(ポスト・レイシャル)」と言われた時代以降に「人種差別(レイシャル)」を扱った作品だ。私はそこに2つの潮流が存在すると考えている。 まず思い浮かぶのは、コルソン・ホワイトヘッドとジェスミン・ウォードであろう。いずれもすでに日本で紹介され人気も高いので説明は省くが、この2人はいずれも(設定は異なれど)人種差別をストレートに書いている。フォークナーの影響濃いウォードのように、ある種の伝統的な作風ともいえるだろう。ネイティヴ・アメリカンを書き続けたルイズ・アードリックの2021年のピューリッツァー賞受賞作 The Nightwatchman などもその流れに加えられるか(過去記事参照)。 もうひとつは、人種差別をアイロニーやコ
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