東京大学大学院情報学環教授 西垣通 明治以降、日本の知識人たちは西欧の知識を科学技術と哲学に分けて受容してきた。それにより効率よく科学技術を取り入れることはできたが、情報技術を扱ううえで欠かせない実践的な思考の技法としての哲学を欠いたまま、21世紀を迎えてしまった。 今日、マンガ・アニメ・ゲームなどが世界中で人気を博す一方で、技術力をもちながら、デバイスやネットワーク・サービスの分野で日本企業が欧米企業の後追いに終始するのは、文系と理系の融合した領域にある情報哲学的思考が不足しているためではないか。両者の垣根を越えた「基礎情報学」は、いまの日本が直面する思考の行き詰まりに風穴を開けるものとなるはずだ。 ネット社会への転機? 「情報社会」とか「ネット社会」とかいう言葉は、もはや常套句である。だが、本当に現代がそういう社会なのかと改めて問い返すと、事はそれほど単純ではない。 ネットの中には興味