市門を閉じても間に合わないだろうと、ルネがいった。 ぼくもそれには同意した。 すでに日は高く、この時間に門を閉めては都市民に要らぬ動揺をもたらすことは間違いない。 犯行があったのは早朝、古神殿の裏手の厩だった。ぼくのたったひとりの妹は、そこから姿を消した。 何故そんなところでとぼくが憤ると、神殿のものたちは小さくなって言い訳した。 エリスは自分で馬の世話をするといって、独りでそこに残ったそうだ。それはいつものことで、彼女はまるで馬丁のように、蹄鉄についた泥を落とし汗拭いまでしてやっていたという。 馬とともに過ごす騎士ならいざ知らず、蹴られでもしたらどうするつもりかと、ぼくは危うく声をあげそうになったのをこらえた。 今は、そうした話ではない。 ゾイゼ宰相にはまだこの詳細を伝えていない。 政治向きのことから距離をおいて隠棲生活をしているぼくの両親はともかく、宰相には日が暮れる前には報告しなけれ