妻が家を出ていったことがきっかけではない、そう男は供述している。妻が出ていってしまったせいでやけになって事件を起こすなんて馬鹿げている、発端は結婚するよりも前にある、社会人になった瞬間からこうなる運命だったのかもしれない、そう銀行員の男は供述している。 供述によると、入行してすぐに行員専用カードローンを申し込んだ、というよりも申し込まされたという。三百万円まで自由に利用できる当座貸越枠を手に入れると、最初は(金利がもったいない、給料の範囲で生活していればカードローンなんて使う必要がない)と考え、借り入れすることを恐れさえしていた新入行員たちは、しばらくするとそれぞれが思い思いの、いわゆる遊興費とよばれる資金使途のためにATMにローンカードを挿入し、暗証番号と金額を入力し紙幣を手にすると、まるで打ち出の小槌でも手に入れたかのように気が大きくなって、二度目の借り入れまで時間はかからなかった、皆