タイから東京、そして小田原へ ぼくと小田原動物園の付き合いは、もう30年以上になる。東京から二宮町に引っ越してきたばかりで、まだ友達ができなかった頃、父親はよく小田原城址公園内にあるこの動物園へ連れて行ってくれた。小学校に入って最初の遠足も、たしかこの動物園だった。小田原城の掘にかかった赤い橋を渡り、石段を登りきったところにそびえる城門をくぐると、天守閣をバックに小さな動物園が姿を現す……そんな情景は、ぼくが子供のころからほとんど変わっていない。 当時も今も、動物園の中心にあるのはインドゾウのウメ子が暮らすゾウ舎だ。コンクリートの建物の前には、半円形の広場が設けられ、そのまわりは空堀(水の入っていない掘)で囲まれている。いわば脱走防止用の掘なので深さ約1.6mもあるのだが、ぼくが中学生だった昭和56年(1981年)に、ウメ子がここに転落して大騒ぎになったことがあった。おそらく下に落ちたエサ