がんの入門書 たった1.3cmの厚さしかない『がん遺伝子の発見――がん解明の同時代史』(黒木登志夫著、中公新書)は、なりは小さいが、私たち素人ががんとは何かを知ろうとするとき、先ず最初に手にすべき本である。これほどはっきり断言できるのは、①著者が素人にも理解できるようにと工夫、努力を重ね、それ が見事に成功していること、②執筆の時点までに明らかになったがん研究の最新の成果が盛り込まれていること、そして、この本が出版されてからいささか歳月 が経過しているが、管見の限りでは、その後、この本を超える入門書に出会えていないこと、③がん研究上の発見にまつわる人間臭いエピソード、裏話が臨場感 豊かに描かれていること――この3点のためである。 MRが、今、この本を読んでおくか否かによって、今後のがん研究理解に相当の開きが出てくることだろう。 文章の魅力 この本の文章がいかに分かりやすく、かつ魅力的である