今月は大恐慌が始まつた月である。今から八十三年前、1929年10月24日の「暗黒の木曜日」のニューヨーク株暴落をきつかけに、米國で長期にわたる深刻な不況が起こり、世界に廣がつた。現在の一般的見方では、大恐慌は自由放任的な資本主義が招いた「市場の失敗」とされ、經濟を安定させるには市場への政府の介入が必要だといふ主張の根據にもなつてゐる。しかし事實は異なる。大恐慌を引き起こしたのは自由放任主義ではなく、政府の介入政策だつたのである。 大恐慌の原因が自由放任主義といふ通説に異を唱へた代表的な著作は、オーストリア學派の經濟學者マレー・ロスバードの『アメリカの大恐慌』(1963年、未邦譯)である。また大恐慌を脱するため實施されたニューディール政策についても、その效果を疑ふ見方が増えてゐる。金融實務家で、ロン・ポール下院議員の經濟顧問を務めたこともあるピーター・シフは近著『アメリカが暴発する! 大恐慌