ポール・K・ファイヤアーベント……私がこの偉大な哲学者の著作に初めて触れたのは、今から二十七年も前のこと。私は、大学の二年生で、伊東俊太郎先生(科学史)の講読の授業を取ったのがきっかけだった。ちょうどその頃、新進気鋭の科学哲学者(そして科学史家)として売り出し中だった村上陽一郎先生が、『方法への挑戦』(共訳・渡辺博、新曜社)を翻訳したのである。そして、私は輪講という形でファイヤアーベントの著作に入門した。 当時、後輩の死をきっかけに、法学の道を棄てて、知的な放浪の旅に出ていた私は、ファイヤアーベントの思想に大きな衝撃を受けた。特に、『方法への挑戦』のなかで、科学という営みが、宗教や組織犯罪や売春(!)と比べられていることに驚かされた。また、実験の積み重ねから仮説が導かれるのではなく、最初になんらかの仮説が頭の中にあって、それが理由で実験を行なうのだ、という科学哲学の常識に触れて、私は知的な