本書は,実践的にコンパイラを学ぶことができる教科書である。コンパイラを記述するプログラミング言語にはOCamlという関数型言語を採用した。また,目的コードには多くのPCで動作確認ができるようにx64コードを採用した。 言語処理系の研究の歴史は,計算機科学の分野の中でも,特に古い部類に入る。その長い歴史の中でも,最近のコンパイル技術の発展には目を見張るものがある。プログラミング言語に新しい概念が導入されるたびに新たなコンパイル手法が提案されてきたのはもちろんであるが,コード最適化に代表されるコンパイラ特有の技術も目覚ましい発展を遂げてきた。 一方,コンパイラの理論と実装の間のギャップはさらに広がったように見える。なぜなら,コンパイラの理論は,長年かつ多岐にわたるアルゴリズムの集積によってさらに複雑化しており,その実装は,新たな原始言語あるいは目的機械から生ずる多くの例外を,統合するよう求めら