旧ソビエトにルイセンコという生物学者がいた。秋撒き小麦の種子を湿らせて冷蔵しておくと春撒き小麦になること(春化)から、彼はそれを、厳しい「環境」によって秋撒き小麦が春撒き小麦の形質を獲得したとした(獲得形質遺伝)。人為的に行う春化処理自体は現在も行われている方法であるが、当時、多くの科学者達がそんなルイセンコの様々な学説を否定した。なぜなら、彼の主張が科学的なものではなく、マルクス主義という思想が基礎にあったからだ。しかし、スターリンはじめソビエトの政治中枢は「共産主義的である」とルイセンコを支持した。彼の学説に反対する常識的な科学者達は排斥され、ルイセンコは党内で権力を獲得した。ソ連国家は学問的には無能であった彼に農業政策を任せたのだが、思想ありきで考えられた政策のためソ連全土で農地は荒廃してしまった。この失敗を、農民達が「反マルクス的」「ブルジョア的」だったからだとし、多くの農民が収容