正欲(新潮文庫)は平成生まれの直木賞作家・朝井リョウの多様性を尊重する時代の不都合な側面を描く作品。 本作の構成はパズルのように展開していく。何者かの独白、週刊誌の記事、偶像劇めいた日常。そして、後半に真実が明らかになり最後に一枚の絵になる。 「好きなことで生きていく」。かつて、そんな謳い文句のYouTube広告があったのを覚えている。だが、もしもその「好きなこと」が、世間から逸脱したものだったら?反社会的な衝動だったら?そんな疑問が、私の脳裏をよぎったことがある。 『正欲』にも、不登校YouTuberに影響されて動画制作活動を始める子供たちとその家族が登場する(余談だが現実の有名不登校Youtuberが学校に戻るのは本作が出版された後のこと) 登場人物たちは、マイノリティ(性的少数派)とマジョリティ、そしてマイノリティを受け入れる立場という、緊張感に満ちた三すくみの関係性の中に置かれてい