亀山郁夫*1「耳の実力」(in 『わたしと「名著」』NHK出版、pp.22-23) 曰く、 (前略)ドストエフスキーの『罪と罰』*2と『カラマーゾフの兄弟』*3。十九世紀のロシアで書かれたこの二作が、私の読書人生のアルファにしてオメガである。そこで改めて自問してみる。二十一世紀の今を生きる私にとって、「名著」に値する小説とは何か、と。まばゆい後光に包まれた文豪たちの名がたちどころに思い浮かぶが、私はさほど迷うことなく宮部みゆき『模倣犯』を挙げるだろう。9・11事件が起こった二〇〇一年の刊行。意外なセレクト、奇を衒いすぎ、と驚きの声が聞こえてくることも覚悟のうえでの選択である。『模倣犯』にはたしかに、伝統的な小説作法を突き崩す何かがある。スティーヴン・キング譲りの多視点の方法がすばらしく魅力的に感じられた。また、ドストエフスキーばりともいえる「多声性」の原理が縦横を貫いていることにも驚かされ