『狩りの時代』 (津島佑子 著)「差別の話になったわ。」 母がそう言ったのは二〇一五年の暮れ。夏前から新作に取り掛かっていた。 「面白い作品になってると思う。でもまだ後半が荒いから書き直さないと。」 肺がんが見つかってちょうど一年が過ぎ、二つ目の抗がん剤は効果がなく、腎臓と膵臓への転移が見つかっていた。声はしっかりしていたが呼吸が苦しそうで、見ているこっちが辛くなった。私は恐る恐る聞いた。 「連載はいつからなの。」 「四月からでどうですかって聞かれたけど、五月にしてもらった。四月だとまだ体調が万全じゃないかもしれないから。」 年末に承認されたばかりの新薬による治療を年明けから受けることになっていた。その薬が効けば、がんと共存しながら、また前のような生活に戻ることができる、そう信じていた。一月からの投与で、薬の効果が出始めるのが二月として、そこから落ちてしまった筋肉を取り戻し、作品に集中する