■放浪の芸能者への共感 1969年に発刊されたばかりの『私は河原乞食・考』を読み終えた私は、本の奥付の住所を頼りに小沢昭一さんに便りを出した。具体的なプランも無しで、この内容を何とかレコード化したいと思ったのだ(薄桃色に白抜きの「色」などの文字を配した三一書房版のカバーが懐かしい)。 この本で覗(のぞ)いた世界は、若輩の私にとっては未知ながら新鮮で、驚きに満ちたものだった。ストリッパー、香具師(てきや)傘下の大道物売り、見世物、演歌師への聞き書き・対談からホモセクシュアルと芸の関係の考察などが柱になり、合間に種々の文献資料がちりばめられていた。どのページにも彼らのエネルギー、ウサンクサさ、猥雑(わいざつ)さを敬愛するとともに、そこから日本の芸能の素性を探り、俳優として生きる手がかりをつかみとろうとする小沢さんの切実な問いかけがあった。 ■墓碑銘を刻む旅 30代後半だった小沢さんはすでに今村