ロシアの歴史や文化にはテュルクの要素が少なくない。長い歴史の中で、ロシアと中央ユーラシアのテュルクとの関係は密接なものであった。現在のロシアにおいてもそれは同様である。テュルクの人々は古来、豊かな口頭伝承の伝統を発展させてきたが、英雄叙事詩や伝説などの口碑にもロシアは現れる。16 世紀後半にはじまる、ロシアの領土拡張と異民族支配を反映し、テュルクの伝承にはロシアとの戦いが描かれてきた。ロシアの征服の様子や敵ロシアと戦う勇者の姿が歌われてきたのである。「帝国」への第一歩となるカザン征服は英雄叙事詩『チョラ・バトゥル』に描かれ、カザン・ハン国やアストラハン・ハン国、シビル・ハン国を併合する経緯は共通する「罠」によって印象的に伝えられる。プガチョフの反乱をはじめとする反ロシア闘争や第一次世界大戦時の強制徴用についても詩人たちは語ってきた。それらは、中央ユーラシア・テュルクの人々の側から見たロシア