川口は大阪府の中南部に位置する高石市に住んでいた。父は会社員、母は実家の自営業を手伝っていた。2歳上の兄がいる。 兄は私立中学に進学し、川口も当然のように中学受験をし、大阪市の中心部にあるミッションスクール・大阪女学院に合格する。 高石市の自宅から学校のある大阪市の中心部まで、45分ほどかけて電車通学が始まった。 途中、新今宮駅で乗り換える。仲良しの同級生も同じ路線なのではと思い、一緒に帰ろうと誘ったところ、「あんな危ない駅、乗り降りしたらあかんってお父さんに言われてんねん」と返された。新今宮駅で乗り換えた方がスムーズなのに、彼女はわざわざ一駅手前で降りて違う路線を使っていると聞き、川口の頭に疑問が湧いた。 「あんな危ない駅って? なんで危ないん?」 このときの川口はまだ、駅のホームから見える「釜ヶ崎」「あいりん地区」など、この一帯を指し示す時に特別な意味を持つワードを知らない。 1枚のコ