人のゲノム(遺伝子)研究が、がん治療を変えつつある。異常なゲノムを見つけ出し、その変異に応じた薬を患者に届ける「個別化医療」への挑戦だ。 2013年初頭、東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターの宮野悟センター長は、片思いに胸を焦がしていた。お相手は、対話が知的で洞察力に富み、たゆまぬ向上心も魅力だ。気にかかったのは、ユーモアに欠けるところくらい──。 宮野さんが心ひかれたその“人”の名は「ワトソン」。米IBMが開発した最新のコンピューターシステムである。 「ひと目見て、これは、がん研究に使えるなと思ったんです」 ワトソンの実体は、人間が日常会話で使う自然言語を理解するクラウド上のソフトウェアだ。単に自然言語を扱えるだけでなく、導いた答えが妥当かどうか自ら検証し、学習していく。 したがって学習するデータをアレンジすれば、さまざまな専門知識を持ったワトソンを生み出せる。宮野さんが
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