草食ではなくて肉食。若い男の体臭が、むんむん臭ってくる小説です。ただしライオンのような猛々しさ、かっこよさは微塵もありません。 汗、酒、煙草、そして浅ましさや愚かさ。冷酷になれないから、犯罪者にもなれない平凡さ。しょせん俺とうい人間はこうなのだー。と、開き直るように言葉を叩きつけ、そこから一人の人間の存在感が立ち上がってきます。 「苦役列車」(西村賢太、新潮社)は、コンテンツ・マーケティングを考えたら、最悪の部類でしょう。どう転んでも女性に好まれそうもないし、心温まる感動を求める多くの読者にとっても、う〜ん、ばつ「×」。 しかし「俺はこれが書きたかったし、これしか書けない」と言う熱量がすごい。作品を破綻させない、作家としての基礎体力も確固としてあります。 単行本の帯から引用すると「友もなく、女もなく、一杯のコップ酒を心の慰めに、その日暮らしの湾港労働で生計を立てている十九歳の貫多。(中略)