盆土産 三浦哲郎 えびフライ、とつぶやいてみた。 足元で河鹿が鳴いている。腰を下ろしている石の陰にでもいるのだろうが、張りのあるいい声が川につけたゴム長のふくらはぎを伝って、ひざの裏をくすぐってくる。つぶやくにしても声にはならぬように気をつけないと、人声には敏感な河鹿を驚かせることになる。 えびフライ。発音がむつかしい。舌がうまく回らない。都会の人には造作もないことかもしれないが、こちらにはとんとなじみのない言葉だから、うっかりすると舌をかみそうになる。フライのほうはともかくとして、えびが、存外むつかしい。 えびフライ。さっき家を出てくるときも、つい、唐突にそうつぶやいて、姉に、 「まぁた、えんびだ。なして、間にんを入れる? えんびじゃねくて、えびフライ。」 と訂正された。自分では、えびと言っているつもりなのだが、人にはえんびと聞こえるらしい。それが何度繰り返し