かつて、外務省は「日本のパスポートの偽物など作れるわけがない」と豪語していた。 確かに日本のパスポートにはさまざまな偽造防止の方法が取り入れられているが、世の中に偽造できないものなどほとんどないのだ。 わたしはかつて捜査当局の依頼で、偽造パスポートを鑑定したことがある。紙の素材から刷り込まれた装飾模様、文字の書体、写真のページの透明フィルムなどを高倍率のルーペで丹念に調べたが本物と変わりがなかった。 偽造の際に起こりがちな文字のつぶれなどもない。透かしもきちっと入っており、使われている蛍光物質も正規通りだった。写真の転写も色ムラ一つないのだ。光学分析機を使ってインクの成分まで調べたが、ついに違いは見つけられなかった。 実によく出来ていて偽造と思われなかったが、その捜査当局は偽物であることは間違いないから、その証拠を捜し出してくれというのだ。 わたしはため息をついて、再度、ルーペで