「東海道四谷怪談」の面白さの一つに大道具・小道具の仕掛けの工夫があるのですが、今回はそれをご紹介します。この仕掛けは総て名人と言われた大道具師11世長谷川勘兵衛(はせがわかんべえ)(1781−1841)の考案になるものだそうです。 (1)「戸板返し」---- お岩と小仏小平(こぼとけこへい)の死体が表裏に打ち付けられた杉の戸板が、砂村隠亡堀に流れつき、民谷伊右衛門の垂れた釣り糸に掛かります。お岩と小仏小平の役は一人の役者が2役勤めるのが普通ですが、お岩の肉脱した死骸が伊右衛門に怨み事を言います。驚いた伊右衛門が南無阿弥陀仏と念じて戸板を突くと、戸板がバッタリ裏返って小平の死骸が両眼を見開いて「薬を下され」と手を差し出すのです。お岩と小平は同じ役者ですから瞬時に替わる仕掛けがこの「戸板返し」なのです。ギョッとした伊右衛門が斬りつけると、小平の死骸が白骨になって水中へ落ちる仕掛けも見事です。