石川県加賀市には、橋立港で水揚げされる豊かな海の幸や加賀野菜と呼ばれる伝統野菜から、九谷焼に代表されるような食事を彩る器にいたるまで、こだわり抜かれた食文化が溢れている。江戸時代より代々の加賀藩主が発展させてきた食文化は加賀の人々の手によって、今も大切に育てられている。そうした加賀の食文化のひとつに、「坂網鴨」と呼ばれる加賀の伝統猟法の坂網猟で捕えられた天然鴨がある。そして、その「坂網鴨」の希少性と美味しさは世界の一流シェフが注目するほどである。 「坂網鴨」の猟期は冬の3ヵ月間。猟は雁(がん)や鴨など多くの渡り鳥の越冬地として知られる加賀市大聖寺の片野鴨池周辺で行われる。捕獲量は年間300羽前後と非常に少なく、加賀市外の市場では滅多に出回ることがない。 「坂網鴨」の魅力は、その希少性もさることながら、特筆すべきはその味だ。鮮やかな赤みをもつ「坂網鴨」の肉は弾力があり、鴨肉がもつ独特な臭みも